summary:
プラガブルトランシーバの歴史的起源は1990年代後半に遡る.当時の光通信機器においては,光電変換機能が機器本体に固定的に組み込まれており,伝送距離,波長,通信規格の変更に対応するためには装置全体の交換が必要であった.この問題を解消するために,光電変換機能をモジュール化し,標準化された電気・機械インターフェースを通じて主装置と接続するという概念が誕生した.
最初期のプラガブル光モジュールは,1998年にIEEE 802.3z規格の一部として標準化されたGBIC[Gigabit Interface Converter]である.GBICは1Gbpsイーサネットに対応し,SC型光コネクタを備えた比較的大型の光トランシーバであったが,その導入により同一のネットワーク機器でマルチモードファイバとシングルモードファイバ,短距離・中距離・長距離伝送といった多様な運用形態に柔軟に対応できるようになった.
2000年代初頭には,GBICの小型化を目的としたSFP[Small Form-factor Pluggable]が登場した.SFPはGBICの約半分のサイズであり,高密度なポート実装を可能にした.SFPは当初1Gbpsの光通信向けであったが,後に登場したSFP+では10Gbpsに対応し,データセンターやキャリアネットワークにおける事実上の標準的インターフェースとして広く普及した.
2000年代中盤から後半にかけて,40Gbpsおよび100Gbps伝送の需要増大を背景に,より高速なプラガブルトランシーバが次々と開発された.XFP[10 Gigabit Small Form Factor Pluggable]は10Gbpsに特化し,SFP+に比べてCDR[Clock and Data Recovery]などの高機能処理を内蔵していた.40Gbps向けにはQSFP[Quad Small Form-factor Pluggable]が,100Gbps向けにはCFP[C Form-factor Pluggable]が登場し,複数の10Gbpsレーンを束ねて高速化を図るアプローチが採用された.
CFPファミリーは高速化と小型化を両立させる重要な進化を遂げた.初代CFPは大きく高消費電力であったが,後継としてCFP2[約50%小型化],CFP4[約75%小型化],CFP8[最大800Gbpsに対応]と段階的に進化した.一方,QSFPファミリーもQSFP+[40Gbps]からQSFP28[100Gbps],QSFP56[200Gbps],QSFP-DD[400Gbps],QSFP112[800Gbps]へと発展し,高密度な実装が可能なインターフェースとして支配的地位を確立した.
2010年代後半からは,データセンター間接続[DCI]やクラウドネットワークにおいて400Gbps以上の超高速伝送に対する需要が急速に高まり,OSFP[Octal Small Form-factor Pluggable],QSFP-DD[Double Density],SFP-DD[Small Form-factor Pluggable – Double Density]などの新世代フォームファクタが開発された.これらのモジュールは小型かつ低消費電力でありながら,最大800Gbps,さらには1.6Tbps以上の伝送に対応するものも登場している.
プラガブルトランシーバの内部構成は極めて高度であり,送信側にはDFBレーザやVCSELなどの光源,駆動回路,プリエンファシス補償回路が搭載され,受信側にはPINフォトダイオードまたはAPD,TIA[Trans-Impedance Amplifier],LIA[Limiting Amplifier]などの回路が実装されている.近年ではDSP[デジタル信号処理]チップの搭載により,クロック回復,等化,変調復調,FECなどの高度な処理が可能となっており,これによって長距離伝送や高雑音環境下での高信頼通信が実現されている.
PAM4[4値振幅変調]の採用により,同一帯域幅内での伝送効率が向上し,25Gbpsレーン×8から50Gbpsレーン×8,さらに100Gbpsレーン×8といった構成で高速化が進んでいる.また,FEC[Forward Error Correction]の内蔵により,符号化利得を通じて伝送距離の延伸と誤り耐性の向上が図られている.
特筆すべきは,かつては専用装置でしか実現できなかったコヒーレント光通信が,CFP2-ACO,CFP2-DCO,QSFP-DDなどのフォームファクタにまで小型化され,400ZR,400ZR+,800ZRといった標準化されたモジュールとして普及してきた点である.これにより,従来は中継装置[光トランスポンダ]を必要とした長距離データセンター間接続が,プラガブルモジュールのみで実現可能となり,光ネットワークの構築と運用の大幅な簡素化が進んでいる.
プラガブルトランシーバの標準化においては,IEEEがイーサネットの物理層インターフェースの規格を,ITU-TがOTNや光システム全体の仕様を,OIFが光モジュールとDSPの相互運用性を,MSA[Multi-Source Agreement]コンソーシアムが具体的なフォームファクタやピン配列などの実装仕様を策定しており,それぞれの役割分担に基づいて業界全体の技術進化を推進している.
現在のプラガブルトランシーバ市場においては,信号速度の向上に伴って,PCB設計,電気コネクタ,パッケージング,EMI対策,サーマル設計といった周辺技術の高度化が不可欠となっている.特に112Gbps/laneを超える信号速度に対応するためには,低損失伝送路の設計,高速SerDes,光-電気界面の高効率化などが重要な研究開発領域となっている.
さらに,電力効率の改善も長期的課題であり,Gbps/Wという単位で表現されるエネルギー効率の向上がデータセンターの運用コストと直結している.このため,低閾値レーザ,高効率ドライバ,先進的なFinFETやSiGeプロセスによるDSP設計,ならびに光集積技術[Photonic Integrated Circuits: PIC]の導入が加速している.
将来に向けて,1.6Tbpsおよび3.2Tbpsといったさらなる超高速化が現実味を帯びており,これに対応する新たなパッケージング技術や冷却方式,さらには人工知能を用いたリアルタイムな伝送最適化の導入も検討されている.加えて,シリコンフォトニクスによるレーザ統合や,セントラルオフィスの光電融合モジュール,光スイッチとの一体化など,次世代ネットワークの中核技術としての展開が期待されている.
Mathematics is the language with which God has written the universe.