レヴィの反転公式

Lévy inversion formula

レヴィの反転公式[Lévyの反転公式]とは,確率変数特性関数から分布関数[あるいは密度関数]を復元するための公式である.

確率分布関数 $F$ の特性関数を,\[\varphi(t)=\int_{-\infty}^{\infty} e^{itx}\,dF(x)\]と定める.任意の実数 $a < b$ について,もし $a$ および $b$ が $F$ の連続点であるならば,\[F(b)-F(a)=\lim_{T\to\infty}\frac{1}{2\pi}\int_{-T}^{T}\frac{e^{-ita}-e^{-itb}}{it}\,\varphi(t)\,dt,\]が成り立つ.ここで $t=0$ に対しては極限値 $\dfrac{e^{-ita}-e^{-itb}}{it}\big|_{t=0}=b-a$ を取るものとする.

導出

まず恒等式\[\frac{e^{-ita}-e^{-itb}}{it}=\int_{a}^{b} e^{-itx}\,dx\qquad (t\neq0)\]を用いる.特性関数の定義を代入すると,\[\frac{1}{2\pi}\int_{-T}^{T}\frac{e^{-ita}-e^{-itb}}{it}\,\varphi(t)\,dt=\frac{1}{2\pi}\int_{-T}^{T}\frac{e^{-ita}-e^{-itb}}{it}\left(\int_{\mathbb{R}} e^{ity}\,dF(y)\right)dt.\]ここで被積分関数は絶対値で上下から有界であり[具体的には, $\left|\dfrac{e^{-ita}-e^{-itb}}{it}\varphi(t)\right|\le b-a$],また, $|\varphi(t)|\le1$ であるため,フビニの定理により積分順序の交換が許される.従って,\[\frac{1}{2\pi}\int_{-T}^{T}\frac{e^{-ita}-e^{-itb}}{it}\,\varphi(t)\,dt=\int_{\mathbb{R}}\left(\frac{1}{2\pi}\int_{-T}^{T}\frac{e^{-ita}-e^{-itb}}{it}e^{ity}\,dt\right)dF(y).\]内側の $t$ 積分を $x$ に関する積分に書き換えると,\[\frac{1}{2\pi}\int_{-T}^{T}\frac{e^{-ita}-e^{-itb}}{it}e^{ity}\,dt=\int_{a}^{b}\frac{1}{2\pi}\int_{-T}^{T} e^{-it(x-y)}\,dt\,dx.\]核関数を,\[K_T(u):=\frac{1}{2\pi}\int_{-T}^{T} e^{-itu}\,dt=\frac{\sin(Tu)}{\pi u}\]と定義すれば,\[\frac{1}{2\pi}\int_{-T}^{T}\frac{e^{-ita}-e^{-itb}}{it}e^{ity}\,dt=\int_{a}^{b} K_T(x-y)\,dx.\]変数変換 $v=T(x-y)$ を用いると,\[\int_{a}^{b} K_T(x-y)\,dx=\frac{1}{\pi}\int_{(a-y)T}^{(b-y)T}\frac{\sin v}{v}\,dv.\]既知の事実\[\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\sin v}{v}\,dv=\pi\]を使うと,固定した $y$ に対して,\[\lim_{T\to\infty}\int_{a}^{b} K_T(x-y)\,dx=\begin{cases}1, & y\in(a,b),\\\frac{1}{2}, & y=a\ \text{または}\ y=b,\\0, & y\not\in[a,b].\end{cases}\]

ここで,$K_T$ は $T$ に依存する関数[核関数]で,$T \to \infty$ のときデルタ関数に近づくように設計されている.上記の式は固定した $y$ について、積分区間 $[a,b]$ 内での $K_T(x-y)$ の積分が,$y$ の位置によって異なる極限値を取ることを表している.$y \in (a,b)$ の場合:$y$ が積分区間の内部にあるとき,$K_T$ は近似的に $\delta$ 関数のように$x = y$ の周囲に質量を集中させるため,積分の極限は $1$ になる.$y = a$ または $y = b$ の場合:$y$ が積分区間の端点にある場合,$\delta$ 関数の半分だけが積分区間に含まれるため,極限は $\frac12$ になる.これはデルタ関数の質量が左右均等に広がっているという性質に由来する.$y \notin [a,b]$ の場合:$y$ が区間の外にある場合,$\delta$ 関数の中心は積分区間に含まれないため,極限は $0$ になる.

さらに核積分は任意の $y$ について一様に有界であり,\[\left|\int_{a}^{b} K_T(x-y)\,dx\right|\le 1\]が成り立つから,支配収束定理を用いて極限と $y$ に関する積分の順序を入れ替えることができる.端点 $a,b$ が $F$ の連続点である仮定の下では端点での半分寄与は消え,極限は,\[\int_{\mathbb{R}}\mathbf{1}_{(a,b)}(y)\,dF(y)=F(b)-F(a)\]となる.これにより差分形の反転公式が導かれた.

小史

レヴィの反転公式[Lévy’s inversion formula]は,確率論と調和解析の両方において重要な位置を占める結果である.特性関数は分布関数のフーリエ変換であり,分布の情報を完全に保持しているが,その逆変換を厳密に行うためには境界における注意や収束の扱いが必要である.この問題を体系的に解決するために,ポール・レヴィ[Paul Lévy]が20世紀初頭に反転公式を与えた.

数学史的には,レヴィの反転公式は以下の流れの中に位置付けられる.

まず,19世紀末にはラプラスやフーリエが,確率分布の解析において積分変換を用いる手法を確立した.特に characteristic function[特性関数]は,P. Lévy の以前にも W. Feller や A. Khintchine らの研究で中心的役割を果たしていた.しかし,特性関数から分布関数を復元する過程は必ずしも形式的に安全ではなく,特に分布関数が不連続な点[質点]を持つ場合には,直接の逆変換式は成り立たない.そこでレヴィは,積分の極限操作を適切に定式化し,境界点では半分の重みが現れることを明示した.この半分の重みは,後にフーリエ解析におけるジャンプ公式[Dirichletのジャンプ公式]やポワソン核による近似恒等式の理論と整合するものである.

その後,レヴィの反転公式は確率論で特性関数の一意性や収束定理の証明に不可欠な道具となり,また調和解析や分布論においても「近似恒等式によるデルタ関数の構成」として再解釈された.今日では,ポール・レヴィの公式は単に確率分布の復元手段であるだけでなく,フーリエ変換理論の中でデルタ分布の振る舞いを精密に理解するための古典的かつ基本的な結果とされている.

Mathematics is the language with which God has written the universe.





















自然対数の底 特性関数 k次モーメント サンプルパス 概収束 単調収束定理