
リョウリギク(料理菊)は、キク科(Asteraceae)キク属(Chrysanthemum)に属する多年草であり、観賞用のイエギク(家菊、Chrysanthemum morifolium Ramat.)のうち、特に食用に適するよう改良・選抜された品種群の総称である。学名はChrysanthemum morifolium Ramat. var. sinense Makino f. esculentum。標準和名としてはショクヨウギク(食用菊)とも呼ばれる。中国原産で、日本には奈良時代までに伝来したと考えられている。
イエギク自体は、中国において北方原産のチョウセンノギク(Chrysanthemum indicumなど)と南方原産のシマカンギクとの交雑に由来する栽培植物であるとする説が有力であり、リョウリギクはその中でも苦味が少なく、花弁が管状で厚みがあり食感に優れる品種を、長い年月をかけて選抜・育成してきたものである。黄色の「阿房宮(あぼうきゅう)」や、紫がかった桃色を呈する「延命楽(えんめいらく)」(山形県では「もってのほか」、新潟県では「かきのもと」などとも呼ばれる)をはじめ、東北地方を中心に多くの品種が発達してきた。
リョウリギクは多年生の草本で、草丈はおよそ50~100センチメートルに達する。茎はよく分枝し、葉は互生して深い切れ込みを持つ。地下茎は晩秋の低温にさらされるとロゼット状になって越冬し、春先の気温上昇とともに新芽を伸ばして茎を成長させる、キク属に典型的な生活環を示す。
花は頭状花序を形成し、周辺部の舌状花と中心部の筒状花からなるキク科共通の構造を持つ。食用として利用されるのは主にこの舌状花の花弁部分であり、観賞用の菊と比べて花弁が大きく厚みを持ち、苦味の少ない食感を実現している点が最大の特徴である。花弁が平らではなく丸まって筒状になっている品種ほど、食感において特有のシャキシャキとした歯ざわりが際立つとされる。花色は品種によって黄色や紫がかった桃色(紅紫色)など多様であり、花期はおおむね10月から11月にかけての秋である。代表品種である延命楽は加熱しても色が褪せにくいという性質を持ち、阿房宮は香りと甘みに優れるなど、品種ごとに異なる特性を備えている。
リョウリギクの原種にあたるイエギクは中国原産であり、日本へは奈良時代までに遣唐使らを通じて伝来したと考えられている。栽培は日本各地で行われているが、なかでも冷涼な気候を好むことから、東北地方や新潟県を中心とした地域で盛んに栽培されてきた。山形県は食用菊の生産量において全国でも高い割合を占め、青森県、新潟県などとともに主要な産地として知られている。
栽培は露地栽培が一般的であり、春に萌芽した新芽を株分けや挿し芽で増やし、初夏に定植して秋に開花・収穫する年間サイクルが取られる。生育には冷涼な気候が適しており、これが東北地方や日本海側の地域を中心に特産化してきた生態的背景の一つとなっている。
リョウリギクの花弁には、抗酸化作用を持つポリフェノールの一種であるクロロゲン酸類(クロロゲン酸のほか、複数のジカフェオイルキナ酸類)が含まれており、品種によってその抗酸化活性には差異があることが報告されている。加えて、フラボノイド類としてルテオリンやアピゲニン、およびそれらの配糖体が主要な成分として含まれ、特にルテオリンは消炎や抗アレルギーといった強い生理活性を示すことが知られている。
また、精油成分の主体をなすテルペン類の中には、トリテルペン類に分類されるヘリアントリオールCやファラジオール脂肪酸エステルなど、抗炎症作用を持つとされる成分も含まれている。栄養面ではβ-カロテンやビタミンC、葉酸、抗酸化作用を持つαトコフェロールなどが豊富に含まれることも報告されており、これらの成分の複合的な作用が、リョウリギクの持つ健康機能性に寄与していると考えられている。なお、キクの頭花は「菊花」として日本薬局方外生薬規格集や中国の薬局方にも収載される生薬でもあり、漢方処方に配合されることもある。
中国では古代から、菊は延命長寿をもたらす花として尊ばれ、菊茶や菊花酒として、また漢方薬としても利用されてきた歴史を持つ。日本でも奈良時代の伝来当初は主に観賞用・薬用として珍重されたが、江戸時代に入ると花弁を食用とする習慣が広まり、松尾芭蕉が菊の酢の物を詠んだ句を残していることからも、この時期にはすでに食用菊の料理が親しまれていたことがうかがえる。
現代では、酢の物、お浸し、和え物、天ぷら、刺身のつまなど多様な料理に利用され、花弁を蒸して乾燥させた「干し菊(菊のり)」のような保存食としての加工品も作られている。産地ごとに独自の呼び名や食文化が根付いており、山形県の「もってのほか」、新潟県の「かきのもと」「思いのほか」、青森県の「阿房宮」などはいずれも地域の特産品として位置づけられ、郷土料理の重要な素材ともなっている。刺身に添えられる小菊のように、食用としてだけでなく彩りや香りを楽しむ観賞的な用途と食用とを兼ねた利用のされ方も、リョウリギクの特徴的なあり方だといえる。
リョウリギクは、被子植物のうち真正双子葉類(Eudicots)に含まれ、キク類(Asterids)の中でキク目(Asterales)、キク科(Asteraceae)へと位置づけられる。基となるイエギクは、キク属の中でも野生種同士の交雑に由来する栽培起源の種と考えられており、北方系のチョウセンノギクと南方系のシマカンギクという、異なる地理的起源を持つ野生集団の遺伝的組み合わせによって成立したとする説が有力である。
リョウリギクはこのイエギクの中から、苦味の低減と花弁の大型化・厚肉化という、食用に適した形質を基準に人為的な選抜を重ねて成立した栽培品種群であり、いわば人間による選抜という進化圧のもとで分化してきた系統とみなすことができる。舌状花の形態や成分組成が品種ごとに異なる点は、こうした人為選抜の過程で、風味や色調、食感に関わる遺伝的多様性が意図的に強調・固定されてきた結果であると考えられる。この意味において、リョウリギクは、キク科植物が本来持つ頭状花序の可塑性と、長期にわたる栽培化の歴史とが組み合わさって生み出された、栽培植物の多様化の好例であるといえる。
第2版:2026-07-06.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.