ムラサキウマゴヤシ

概要

ムラサキウマゴヤシ(学名:Medicago sativa L.)は、マメ科ウマゴヤシ属に属する多年生の草本である。西南アジアないし中央アジアを原産地とし、飼料作物としては人類が最も古くから栽培してきた植物の一つとされる。英語名のアルファルファ(Alfalfa)はアラビア語で「最良の飼料」を意味する語に由来し、また欧州ではルーサン(Lucerne)とも呼ばれる。属名のMedicagoは古代に本種が盛んに栽培された西アジアの王国メディアの名に由来するとされ、種小名のsativaは「栽培された」を意味する。和名は、紫色の蝶形花をつけるウマゴヤシ属植物であることに由来し、家畜、特に馬をよく肥やす牧草であるという「馬肥やし」の性質と花の色とを組み合わせて名付けられたものである。日本へは江戸時代に伝来したが普及せず、本格的な栽培は明治以降、北海道の開拓に伴って牧草として導入されたことに始まる。

形態的特徴

頑丈な根株から多数の茎を叢生し、直立あるいは基部でよく分枝しながら高さ0.3から1メートルほどに成長する。茎は中空でしなやかであり、群生する草姿を形成する。葉は互生し、三出複葉で、小葉は倒披針形から楕円形を呈する。花期は初夏から秋にかけて長く続き、特に6月から8月頃に開花が集中する。茎頂に総状花序をつくり、濃紫色から時に白色を帯びる小さな蝶形花を5個から30個ほど密に集める。

花後にできる豆果は直径約0.8センチメートルの円盤状で、時計回りに螺旋を巻くという特徴的な形状を示す。近縁のウマゴヤシ(Medicago polymorphaなど)の果実には縁に鋭い棘があるのに対し、本種の果実には棘がなく、この点は両者を区別する形態的な指標となる。種子は硬実種子であり、螺旋状の莢の中に納められている。根は直根性で非常に深く伸長し、地中5メートルから10メートル、条件によっては15メートル前後にまで達するとされ、この深い根系が本種の強い耐乾性を支えている。

分布と生態

原産地は西南アジアから中央アジアにかけての乾燥・半乾燥地帯であると考えられており、そこから地中海沿岸、北アフリカ、中東、ヨーロッパ、シベリア、北インド、中国へと農業の伝播とともに分布を広げていった。冷涼な気候と水はけのよい弱アルカリ性の土壌を好む一方、過湿な土壌や強い酸性土壌、また凍霜害には弱いという性質を持つ。

根には根粒菌が共生し、大気中の窒素をアンモニア態に固定して植物体に供給する窒素固定機構を備えている。この性質により、本種は貧栄養な土壌であっても旺盛に生育できるうえ、地力を向上させる緑肥としても利用される。一方で、同一種の個体の生育を互いに阻害するアレロパシー的な自己毒性を持つことが知られており、このため連作は避けられ、収穫後には別の作物を挟んだ輪作が一般的に行われる。花粉媒介の面では、北米西部に分布するアルカリバチ(Nomia melanderi)や、人工飼育が容易で世界的に商業利用されているムラサキウマゴヤシハキリバチ(Megachile rotundata)が主要な送粉昆虫として機能しており、種子生産を支えている。

生理・化学的特徴

本種の茎葉には、たんぱく質、βカロテン、各種ビタミン、カルシウムやカリウム、マグネシウム、リンなどのミネラル類が豊富に含まれ、栄養価の高さから「牧草の女王」とも称される。一方で、消化性に関わる成分としてリグニンが挙げられ、成熟が進むにつれて茎葉中のリグニン含量が増加し、反芻家畜における消化率を低下させることが知られている。この点を改善する目的で、リグニン含量を10パーセントから20パーセントほど低減させた改良品種も開発されている。

化学成分としては、サポニン類、トリテルペン配糖体、ステロール類(βシトステロール、スチグマステロールなど)、クメストロールをはじめとするイソフラボン類、アルカロイド類、クマリン類などが報告されている。このうちクメストロールは植物エストロゲンの中でも特に強いエストロゲン様作用を示すとされ、大量に摂取した家畜において繁殖機能に影響を及ぼす事例が指摘されてきた。また種子には非たんぱく質性アミノ酸であるカナバニンが蓄積しており、これはアルギニンと構造が類似するため誤って生体内のたんぱく質合成に取り込まれることがあり、継続的に大量摂取した場合には自己免疫系への影響が懸念される。カナバニンは種子の発芽過程で他のアミノ酸へと変換されて減少していく。

人との関わり

本種は家畜、とりわけ牛や馬、羊の飼料作物として世界各地で広く栽培され、単独で、あるいはイネ科の牧草と混播して利用されている。紀元前のペルシャにおいては、戦車を牽引する馬の飼料として重用されていたと伝えられ、ペルシャ戦争の際にギリシャへ至る経路に本種が繁茂していたという記録も残る。日本では明治時代以降、北海道の開拓とともに牧草として本格的に導入され、酪農・肉牛生産を支える基盤的な飼料作物としての地位を確立した。

近年では、発芽から数日の幼苗をアルファルファ・スプラウトとして生食する利用も広まり、サラダなどの食材として親しまれているほか、乾燥させた茎葉を粉砕してサプリメントやハーブティーに用いる例も見られる。種子は黄色系の染料としても利用されてきた。栽培に際しては、リグニン含量を低減した品種や、除草剤耐性を付与した遺伝子組換え品種の開発も進められており、日本を含む各国で規制上の取り扱いが検討されている。

系統的位置と進化的特徴

ムラサキウマゴヤシは、真正双子葉類のうち、コア真正双子葉類に含まれるバラ類(Rosids)の一群であるマメ群(Fabids)に位置づけられる。マメ群の中では、マメ目に分類され、マメ目はマメ科(学名:Fabaceae、異名としてLeguminosaeも用いられる)を中心とする大きな単系統群である。ムラサキウマゴヤシはこのマメ科の中でも、蝶形花を特徴とするマメ亜科(学名:Faboideae)に属し、さらにウマゴヤシ属(学名:Medicago)に分類される。

マメ科は、根粒菌との共生窒素固定能を高頻度で獲得した系統群として知られ、この形質はマメ目を含むより広い範囲の系統(いわゆる窒素固定クレード)に散在的に見られる、進化的に注目される派生形質である。ウマゴヤシ属は蝶形花冠と螺旋状に巻く莢を共有形質として持つ一群であり、本種はその中でも多年生で直根性という生活史特性、および深根性による高い耐乾性を備える点で特徴づけられる。栽培化の歴史が極めて古いことから、本種は野生集団と栽培集団との境界が地理的・遺伝的に複雑に入り組んでおり、その起源や分化の過程は今日でも植物地理学および分子系統学的研究の対象となっている。


第2版:2026-07-12.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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