ツルドクダミ

概要

ツルドクダミ(Fallopia multiflora(Thunb.)Haraldson)は、タデ科(Polygonaceae)ソバカズラ属(Fallopia)に属するつる性の多年草である。中国原産で、日本へは江戸時代に薬用植物として渡来したのち各地で野生化し、現在では本州、四国、九州、沖縄にかけて広く分布する帰化植物として知られている。和名は葉の形がドクダミに似ており、かつつる状に伸びる性質をもつことに由来するが、ドクダミ(ドクダミ科)とは科の異なる全く別系統の植物であり、両者の類縁関係は形態上の類似にとどまる。

ツルドクダミの最大の特徴は、サツマイモ状に肥大した黒褐色の塊根である。この塊根は生薬名を何首烏(カシュウ)といい、日本薬局方にも収載される薬用植物として古くから利用されてきた。強壮、補血、解毒などを目的とした漢方処方への配合や、育毛剤としての外用利用など、人との関わりの深い植物である。

形態的特徴

ツルドクダミは多年生のつる性草本であり、茎は細く絡みつきながら伸長し、長さ2から4メートルに達する。茎は多数分枝し、条線があって無毛、基部は木質化する。地下部には黒褐色で狭楕円形の大型の塊根を形成し、この塊根はしばしば木質を帯び、まれに1キログラムを超える大きさに成長することもある。

葉は互生し、葉柄は長さ1.5から3センチメートルほどである。葉身は卵形から狭卵形で、長さ3から7センチメートル、幅2から5センチメートルとなり、両面ともに無毛で、基部は心形から類心形、全縁で先端は鋭くとがる。葉の基部を包む托葉鞘(葉鞘)は長さ3から5ミリメートルほどの膜質で、タデ科に特徴的な器官である。

花期は7月から10月ごろで、葉腋または茎頂から円錐花序を出し、長さ10から20センチメートルにわたって白色ないし帯緑白色の小さな花を多数つける。花被片は5個からなり、外側の3個は花後に大きく発達して翼状の構造をもつようになる。雄しべは8個、花柱は3個できわめて短く、柱頭は頭状である。果実は痩果で、宿存する花被に包まれ、黒褐色で光沢があり、卵形で三稜形をなす。果期は8月から11月である。

分布と生態

本種の原産地は中国であり、中国国内では標高200から3,000メートルにおよぶ山地の斜面、岩の隙間、谷間の藪などに自生する。日本へは1720(享保5)年頃、生薬の国産化を進めた江戸幕府のもとで中国から導入され、当初は薬用として栽培された。その後、栽培地から逸出したものが各地で野生化し、本州から四国、九州、沖縄にかけて定着するに至った。現在では山野のほか、市街地周辺の空き地、道端、生け垣といった人為的に攪乱された環境でもしばしば見られ、条件が整うと大群落を形成することもある。

つる性の茎で他の植物や構造物に絡みつきながら旺盛に成長する性質をもち、地下の塊根に養分を蓄えることで、冬季には地上部が枯れても翌年再び萌芽することができる多年生の生活史をもつ。

生理・化学的特徴

ツルドクダミの塊根には、エモジンやクリソファノールに代表されるアントラキノン類、スチルベン配糖体の一種であるテトラヒドロキシスチルベングルコシドなど、タデ科植物に特徴的な二次代謝産物が豊富に含まれる。これに加えてタンニン、脂質、デンプンなども含有することが知られている。

これらの成分に由来して、血中コレステロール低下作用、強心作用、血糖降下作用、抗菌作用など多様な薬理活性が報告されている。特にクリソファノールには腸管の蠕動運動を促進する作用が知られ、緩下作用の根拠のひとつとされる。一方で、生の塊根に含まれる成分には肝機能への負担が指摘されており、伝統的には黒豆汁などを用いて蒸し暴しを繰り返す「制何首烏」という加工処理を経てから薬用に供することで、毒性の軽減が図られてきた。

人との関わり

ツルドクダミの塊根を輪切りにして乾燥させたものは生薬・何首烏(カシュウ)と呼ばれ、日本薬局方にも収載される代表的な生薬のひとつである。漢方医学においては強壮、補血、解毒、緩下を目的として、便秘、慢性胃腸炎、腰膝痛、高脂血症、不眠症などに用いられてきた。また、育毛を目的とした外用剤の原料としても古くから利用されている。

「何首烏」という名称は、中国の伝承に由来するとされ、本種を服用した人物の白髪が黒くなったという逸話にちなむとの説が広く知られている。日本には江戸時代に薬用植物として導入され、以後、各地で栽培・野生化を経て現在に至っており、薬用植物と帰化植物という二つの側面をあわせもつ植物として、人の生活と深く結びついてきた。

系統的位置と進化的特徴

ツルドクダミは、真正双子葉類(Eudicots)のうちナデシコ目(Caryophyllales)に属するタデ科(Polygonaceae)の一員である。タデ科はかつて独立のタデ目として扱われた時期もあったが、分子系統学的な知見にもとづく現行の分類体系では、イソマツ科と姉妹群を形成しつつナデシコ目に含められている。ナデシコ目はサボテン科やナデシコ科、ヒユ科なども含む大きな単系統群であり、多肉植物や塩生植物を多く含むことでも知られる。

タデ科は托葉が合着して茎を鞘状に包む托葉鞘(葉鞘)をもつことを大きな特徴とし、この形質は本科を認識するうえで重要な指標となっている。属レベルでは、かつて広い意味でのタデ属(Polygonum sensu lato)に含められていた分類群が、分子系統解析の結果、単系統性をもたないことが明らかとなり、ソバカズラ属(Fallopia)、イタドリ属(Reynoutria)、ミチヤナギ属(Polygonum sensu stricto)などの複数の属に細分されるに至った経緯がある。ツルドクダミについても、ソバカズラ属のFallopia multifloraとする扱いのほか、イタドリ属に含めてReynoutria multifloraとする見解も併存しており、属の境界をめぐる議論は現在も続いている。このような属レベルでの分類の変遷は、形態形質のみに依拠した伝統的分類が、分子系統解析によってどのように再検討されてきたかを示す好例であるといえる。


第2版:2026-07-14.

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