
アメリカアリタソウ(亜米利加有田草、学名:Dysphania anthelmintica(L.)Mosyakin et Clemants、異名:Chenopodium ambrosioides L. var. anthelminticum A. Gray)は、ヒユ科(Amaranthaceae)アリタソウ属(Dysphania)に属する一年草である。基本種であるアリタソウ(Dysphania ambrosioides)の変種または近縁独立種として扱われ、両者は形態がよく似るが、本種はより花穂が長く、葉の切れ込みが深いという特徴によって区別される。
メキシコを中心とする中南米原産で、日本には帰化植物として定着している。全草に特異な強い芳香を持ち、その果実および全草から得られる精油には駆虫作用を持つ成分アスカリドールが含まれることから、かつては回虫などに対する駆虫薬の原料として重要視され、日本では佐賀県有田地方で栽培されていたことに和名の由来を持つ。
草丈は30から90センチメートル程度になる一年草である。茎は地表近くでやや斜上しながら直立し、多数に分枝する。全体に条線があり、腺毛を伴うことが多い。
葉は互生し、緑色で披針形から長楕円形、深い切れ込みを持つ点が基本種であるアリタソウとの主要な区別点となる。葉縁には不規則な鋸歯があり、葉裏には淡黄色の腺点が散在し、これが特異な芳香の由来となっている。
花期は7月から9月頃で、上部の葉腋や枝先に円錐状の花序を多数出し、両性花と雌花を密な団散花序として咲かせる。花被片は3から5個、雄蕊は4から5個である。花後には扁球形の胞果を結び、内部に光沢のない黒褐色から暗赤褐色の種子を1個含む。
原産地はメキシコを中心とする中央アメリカから南アメリカにかけての地域である。現在では帰化植物として世界各地の温帯から熱帯域に広がっており、日本国内でも道端や荒れ地、畔などの人為的な撹乱地に定着し、野生化した個体群が見られる。
一年草として春から夏にかけて発芽し、夏から秋にかけて開花結実したのち、冬季までに枯死する生活史をとる。強い芳香を持つ腺毛や腺点は、草食動物や昆虫による食害に対する化学的な防御機構として機能していると考えられ、これが荒れ地のような競合の少ない環境において定着を助ける一因ともなっている。基本種であるアリタソウとは生育環境が重なることが多く、日本国内では両者が混生する場合もある。
アメリカアリタソウの最も特徴的な化学成分は、全草および果実から得られる精油(アリタソウ油、俗にワームシード油とも呼ばれる)に含まれるアスカリドールである。アスカリドールは単環性のモノテルペン過酸化物であり、線虫などの寄生虫に対して神経系を麻痺させる作用を持ち、これが古くから知られる駆虫効果の主たる薬理学的基盤となっている。
この精油はかつて回虫や鉤虫などの腸管寄生虫の駆除に用いられてきたが、アスカリドールは治療域と中毒域が近接した化合物であり、過剰投与や誤用によって中枢神経系の興奮、めまい、けいれん、さらには肝臓や腎臓への障害を引き起こす危険性が指摘されている。こうした毒性の強さから、現在ではより安全性の高い合成駆虫薬の普及に伴い、医薬品としての利用は大幅に減少している。
アメリカアリタソウは、その強い駆虫作用のゆえに、伝統的に重要な薬用植物として扱われてきた。中南米では先住民の伝統医療において古くから利用され、スペイン語で「エパソーテ」と呼ばれる近縁のアリタソウ(Dysphania ambrosioides)とともに、駆虫のみならず消化促進のための食用ハーブとしても用いられてきた歴史がある。
日本においては、明治期以降に本種を含むアリタソウ類が導入され、佐賀県有田地方をはじめとする各地で駆虫薬原料としての栽培が行われた。生薬名は「土荊芥(どけいがい)」と呼ばれ、果実期に収穫した全草から精油を蒸留して得るのが一般的な利用法であった。しかしながら、前述の毒性の問題や、より安全な合成駆虫薬の登場により、現在では医薬品としての利用はほとんど見られなくなり、むしろ帰化植物として道端や荒れ地に自生する存在として認識されることが多い。
アメリカアリタソウは、被子植物のうち真正双子葉類(Eudicots)に属し、その中でもコア真正双子葉類に含まれるナデシコ目(Caryophyllales)に位置づけられる。ナデシコ目の中では、伝統的にアカザ科(Chenopodiaceae)として独立の科に分類されてきたが、現行のAPG体系ではアカザ科はヒユ科(Amaranthaceae)に統合され、その中の亜科アカザ亜科(Chenopodioideae)として扱われるのが標準的である。
アリタソウ属(Dysphania)は、腺毛や腺点を発達させて強い芳香を放つという特徴によって、無毛あるいは星状毛を持つ典型的なアカザ属(Chenopodium)から区別され、分子系統学的な解析によってもこの区分がおおむね単系統群として支持されている。なお、アリタソウ属についてはヒユ科アカザ亜科の一員として扱う立場のほかに、独立の科であるDysphaniaceaeとして分離する立場も一部の分類体系では取られており、本属の系統的位置づけは現在も議論の対象となっている。
ヒユ科アカザ亜科に属する植物群は、乾燥地や塩生地、荒れ地といった過酷な環境への適応を進化的に繰り返してきた系統として知られ、C4型光合成や耐塩性機構を獲得した種を多く含むことで知られる。アリタソウ属自体はこうした乾燥・塩生適応とは異なり、腺毛による精油生産という化学的防御戦略を発達させた系統であり、同じ亜科内における多様な環境適応の一つの方向性を示す例として位置づけられる。
第2版:2026-07-17.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.