シコクビエ

概要

シコクビエ(四国稗、学名:Eleusine coracana(L.)Gaertn.)は、イネ科(Poaceae)オヒシバ属(Eleusine)に属する一年生の栽培穀物である。英名をフィンガーミレット(finger millet)といい、これは穂の形が指を広げたような形状を呈することに由来する。

東アフリカの高地を起源地とし、野生種であるオヒシバ属の一種を基に栽培化されたと考えられている雑穀の一つである。日本へは中国を経て古い時代に伝来したとみられ、四国地方で多く栽培されたことからこの和名を持つに至った。現在では味の点で他の穀物に劣るとされ、日本国内での食用栽培はほぼ姿を消したが、アフリカ東部やインドの一部地域では依然として重要な主食作物である。

形態的特徴

草丈は1から1.5メートルほどになる一年草である。稈(茎)はわずかに扁平であり、株立ちして多数の稈を叢生させる。葉身は長さ20から40センチメートル、幅5から13センチメートルほどの線形である。

花序は稈の頂端に形成される穂状花序であり、通常2から7本ほどの穂が指状に集まってつく。それぞれの穂は長さ7から10センチメートルで、花期には幅6から7ミリメートルほどであるが、果実が成熟するにつれて幅10から15ミリメートルにまで太くなる。穂の先端はしばしば内側に曲がり、独特の形状を呈する点が特徴的である。近縁種であり雑草として知られるオヒシバ(Eleusine indica)と花期の外観は類似するが、シコクビエでは果実が成熟しても穂から脱落せず、長く残存する点で識別される。穎果は球形に近く、成熟すると黄赤色から赤褐色、あるいは白色に近いものまで品種によって幅がある。

分布と生態

シコクビエの栽培化は、エチオピアからウガンダにかけての東アフリカ高地で行われたと推測されている。長らく近縁の野生種であるオヒシバがその祖先であると考えられてきたが、オヒシバが2倍体で染色体数2n=18であるのに対し、シコクビエは4倍体で染色体数2n=36であることが判明し、後にアフリカで発見された同じ4倍体の野生種が1994年にシコクビエの亜種Eleusine coracana subsp. africanaとして記載され、これが真の祖先野生種であることがゲノム解析によって確定されている。

本種は不良な土壌環境や乾燥に対して強い耐性を持ち、痩せた土地でもよく生育するきわめて強健な作物である。東アフリカの疎開林帯では、焼畑によって開かれた土地の初年度の環境で特によく生育することが知られており、伝統的な焼畑農耕文化の指標作物の一つに位置づけられている。日本国内でも本州中南部から四国、九州にかけて栽培逸出したものが野生化して見られる場合がある。

生理・化学的特徴

イネ科ヒゲシバ亜科(Chloridoideae)に属する多くの植物と同様、シコクビエはC4型光合成を行う植物である。この光合成様式は、高温かつ乾燥した環境下でも水利用効率および光合成効率を高く維持できる利点を持ち、痩せた土地や乾燥地に強い本種の生態的特性を裏づける生理学的基盤となっている。

穎果はデンプンを主成分とするが、他の主要穀物と比較してカルシウムや鉄分、亜鉛などのミネラル分、および食物繊維を豊富に含む点が栄養学的な特徴として知られる。また品種によっては種皮にアントシアニン系色素を含み、赤褐色や黒褐色を帯びた穀粒となるものがある。穀粒に含まれるデンプンは、発芽の過程で生じる酵素による糖化作用を受けやすく、これが後述する醸造利用の生理的基盤となっている。

人との関わり

シコクビエは、東アフリカやインドの一部地域において現在も主食として重要な位置を占める雑穀である。粥状あるいはパン状に加工して食されるほか、発芽させた穀粒の糖化作用を利用した醸造にも古くから用いられており、東アフリカでは濁酒状の酒が作られ、ヒマラヤ地域でも本種を原料とする伝統的な醸造酒が作られている。

日本へは中国を経て古い時代に伝来したとみられ、四国地方をはじめとする山間部で長らく雑穀として栽培されてきたことから「四国稗」の名がついた。しかし他の穀物と比較して食味に劣るとされたため、明治時代以降は食用栽培が徐々に衰退し、現在では西日本の一部で家畜飼料用として栽培される程度にとどまっている。生薬としても種子が「穇子(サンシ)」の名で知られ、デンプンを主成分とする部位として扱われてきた歴史がある。

系統的位置と進化的特徴

シコクビエは、被子植物のうち単子葉類(Monocots)に属し、その中でもツユクサ類(Commelinids)と呼ばれる大きな系統群に含まれる。ツユクサ類の中でイネ目(Poales)に位置づけられ、イネ目の中でイネ科(Poaceae)に分類される。

イネ科の中では、亜科ヒゲシバ亜科(Chloridoideae)、連クサヨシ連ではなくヒゲシバ連(Cynodonteae)に含まれ、属名はEleusineである。ヒゲシバ亜科はイネ科の中でもC4型光合成を発達させた系統を多く含む単系統群として知られ、乾燥地や熱帯サバンナ環境への適応を通じて多様化を遂げてきた。

オヒシバ属内では、シコクビエは近縁の2倍体野生種であるオヒシバとは独立に、東アフリカに分布する4倍体野生種を祖先として異質倍数化を経て成立した栽培種であると考えられている。この4倍体化は、シコクビエが持つ強い環境耐性や穀粒の安定した稔性を支える遺伝的基盤の一つと推定されており、サバンナ環境下での栽培化の過程で選抜が進んだ結果、野生型に見られる穂の脱粒性が失われ、穎果が穂に残存する栽培型の形質が固定されたと考えられている。


第2版:2026-07-17.

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