オンシジューム

概要

オンシジューム属(Oncidium)は、ラン科(Orchidaceae)に属する着生性のランの一群であり、小輪の花を多数つけた花序が蝶の舞う姿を思わせることから、「ダンシングレディ・オーキッド」の名でも親しまれている。分布の中心は中央アメリカから南アメリカにかけての熱帯から亜熱帯地域であり、黄色や褐色を基調とした小花を房状に咲かせる種が多い。属名は花の唇弁基部に見られる小さな突起(イボ状の付属体)に由来するとされる。なお、後述するとおり、分子系統学的研究によって従来のオンシジューム属は多系統群であることが明らかとなり、近年その多くの種がトリコケントルム属(Trichocentrum)やゴメサ属(Gomesa)などへ再編されるという大きな分類学的変遷を経ている点に留意が必要である。

形態的特徴

本属の植物は着生性または岩生性であり、多くの種で偽鱗茎を発達させる。偽鱗茎は扁平な卵形から楕円形を呈し、先端に1枚から数枚の葉をつける。葉の形態は種によって大きく異なり、細長く直立する「ラバの耳(mule-ear)」型と呼ばれる肉厚な葉を持つ種群や、円柱状に多肉化した葉を持つ種群など、多様な適応形態が見られる。

花序は偽鱗茎の基部から発生し、しばしば分枝しながら長く伸長し、多数の小花を密につける。花は萼片と側花弁が比較的小さいのに対し、唇弁が大きく発達して蝶の翅のような形状を呈することが多く、この唇弁の基部には特徴的な隆起した付属体(カルス)が見られる。花色は黄色から褐色の斑紋を伴うものが多いが、白色や桃色を呈する種も存在する。

分布と生態

本属の植物は中央アメリカから南アメリカ大陸にかけて広く分布し、特にアンデス山脈周辺の湿潤な森林からブラジルの大西洋岸森林、さらには乾燥した低木林に至るまで、多様な環境に生育する種が知られている。多くの種は樹幹に着生するが、岩上や崖地に生育する岩生性の種も少なくない。乾燥に強い適応を示す種は、多肉質の葉や偽鱗茎に水分を蓄えることで、乾季を伴う環境にも対応している。

送粉様式に関しては、多くの種で油分を分泌する花(アブラナ科ではなくキントラノオ科の花)を模倣し、油集め性のハナバチ類を誘引する擬態戦略が発達していることが知られている。この送粉様式に関連した花形態の著しい収斂進化が、後述する分類学的な混乱の一因となってきた。

生理・化学的特徴

着生性のラン科植物に広く見られるように、本属の多くの種もCAM型光合成(ベンケイソウ型有機酸代謝)を営むと考えられており、夜間に気孔を開いて二酸化炭素を取り込み、日中は気孔を閉じて蒸散による水分損失を抑える代謝様式を採る。肥厚した偽鱗茎や多肉質の葉は、この水分保持機構を支える貯水組織として機能している。

花の唇弁基部に見られるカルス(付属体)は、前述のキントラノオ科の花に見られる油腺(エライオフォア)を視覚的に模倣する構造であると考えられており、送粉者である油集め性のハナバチ類を報酬なしに誘引する、いわゆる欺瞞的送粉の一例とされる。このような花形態の収斂は、系統的に離れた複数の系統で独立に生じたことが分子系統学的研究によって示されている。

人との関わり

本属の植物は花付きの良さと栽培の比較的容易さから、洋ラン栽培において広く普及しており、切り花や鉢物として世界的に流通している。カトレア属やミルトニア属など近縁属との属間交配にも盛んに用いられ、多数の交配品種が作出されてきた。特に小輪多花性の種は、房状に伸びる花序の華やかさから贈答用の切り花としても人気が高い。

栽培には、着生性という特性を踏まえ、水苔やバークを用いた鉢植えのほか、板付けなどの方法が用いられる。種によって乾燥に対する耐性が異なるため、原産地の生育環境を踏まえた水やりの管理が求められる。

系統的位置と進化的特徴

本属は、単子葉類のうちキジカクシ目(Asparagales)ラン科(Orchidaceae)エピデンドルム亜科(Epidendroideae)に位置づけられる。同亜科の中ではシンビジウム連(Cymbidieae)オンシジウム亜連(Oncidiinae)に属し、この亜連は新熱帯区を中心に著しい種分化を遂げた大きな分類群として知られる。

分類学的な取り扱いについては、近年大きな見直しが行われてきた経緯がある。伝統的なオンシジューム属は、唇弁基部のカルスの形態など花形質に基づいて広く定義されてきたが、2000年代以降の分子系統学的研究により、この定義に基づく旧来のオンシジューム属は単系統群を成さない、著しい多系統群であることが明らかとなった。これは、油集め性のハナバチ類による送粉という共通の選択圧のもとで、系統的に離れた複数の系統において花形態の収斂進化が独立に生じたためと考えられている。この知見に基づき、旧オンシジューム属に含まれていた多くの種は、トリコケントルム属やゴメサ属をはじめとする複数の属へ再編される新分類体系が提唱されている。ただし、この新分類体系の採否については研究者や栽培界の間で見解が分かれており、今日でも従来のオンシジューム属としての名称が広く使用され続けている点には留意が必要である。


第2版:2026-07-25.

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