ヌルデ

概要

ヌルデ(Rhus chinensis Mill.,基準変種:Rhus chinensis var. chinensis)は、ウルシ科(Anacardiaceae)ヌルデ属(Rhus)に属する落葉小高木、または低木状の樹木である。和名は、幹や枝を傷つけると白い樹液が滲み出ることに由来し、この樹液が古くは器物の塗料として利用されたことに関連するとされる。日本、朝鮮半島、中国、台湾から東南アジア、インドにかけて広く分布し、葉軸に翼を持つことや、葉に生じる虫こぶ「五倍子(ゴバイシ)」がタンニン原料として利用されてきたことで知られる。

形態的特徴

樹高は2~12メートル程度に達する落葉性の小高木で、しばしば根萌芽によって群生し、株立ち状の樹形を形成する。若枝には軟毛が密生し、葉は奇数羽状複葉で互生する。最大の特徴は葉軸に翼状の付属体が発達する点であり、この翼の有無が近縁の変種との識別点となる。小葉は卵状長楕円形から長楕円形で、縁には粗い鋸歯を持ち、裏面には軟毛が生える。秋には紅葉し、鮮やかな赤色から橙色に色づく。花期は6~8月頃で、枝先に円錐花序を形成し、黄白色の小さな花を多数つける。雌雄異株であり、雌株には秋に扁球形の小さな核果が多数実る。果実の表面には白い粉状の物質が付着し、これはリンゴ酸カルシウムを主成分とすることが知られている。

分布と生態

日本では北海道から沖縄にかけて広く分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾、インドシナ半島、インドなど、アジアの温帯から熱帯にかけての広範な地域に自生する。日当たりの良い荒れ地や伐採跡地、林縁などに先駆的に侵入する陽樹としての性質を持ち、根から萌芽を出して株を広げるため、しばしば群落を形成する。虫こぶ形成に関与するヌルデシロアブラムシなど特定の昆虫との強い生態的関係を持つことも本種の生態を特徴づける要素であり、これらの昆虫がヌルデの葉に寄生することで五倍子と呼ばれる虫こぶが形成される。鳥類が果実を採食することで種子散布に寄与する点も、他のウルシ科植物と共通する生態的特徴である。

生理・化学的特徴

ヌルデの葉に形成される虫こぶ「五倍子」は、タンニンを非常に高濃度に含むことで知られ、その含有率は乾燥重量の50パーセントを超えることもある。このタンニンは没食子酸を主成分とし、染色や皮なめしに用いられる工業原料として古くから利用されてきた。樹液や樹皮にはウルシ科植物に特有のウルシオール類縁化合物が含まれることがあり、体質によっては皮膚に触れることでかぶれを生じる場合がある。果実表面の白色粉末はリンゴ酸カルシウムを主体とし、これを溶かして塩味を得る利用法が伝統的に知られている。

人との関わり

ヌルデは、葉に形成される五倍子がタンニンの重要な資源として、染料や皮なめし剤、また没食子酸を利用した薬用素材として古くから利用されてきた。日本でも「附子(ふし)」や「五倍子(ごばいし)」の名で古くから知られ、お歯黒の材料としても用いられた歴史を持つ。材は柔らかく加工がしやすいことから、細工物にも利用される。また、果実表面の塩味を帯びた白い粉は、山中での簡易な塩分補給源として利用された記録も残る。荒れ地にいち早く侵入する性質から、荒廃地の緑化や土壌保全の目的で植栽されることもある。

系統的位置と進化的特徴

ヌルデは、被子植物のうち真正双子葉類(Eudicots)に属し、その中でもバラ類(Rosids)に含まれる。バラ類の中ではムクロジ目(Sapindales)に位置づけられ、同目はウルシ科(Anacardiaceae)を含む系統群である。ウルシ科の中でヌルデ属(Rhus)は、かつてより広範な範囲を含む属として扱われていたが、分子系統解析の進展に伴い、コティヌス属(Cotinus)やサースィア属(Searsia)、ツタウルシ属(Toxicodendron)などが独立した属として分離され、現在ではより狭義に限定された単系統群として位置づけられている。なお、ヌルデの学名をめぐっては、かつてRhus javanicaの変種として扱う分類(Rhus javanica var. chinensis)が用いられてきた経緯があるが、現在では独立種Rhus chinensisとして扱う体系が広く採用されている。ヌルデ属は東アジアから東南アジア、北米にかけて広く分布し、各地で独自に多様化した系統を含むことが分子データからも示唆されている。


第2版:2026-07-30.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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