
アカバナミツマタ(Edgeworthia chrysantha 'Rubra')は、ジンチョウゲ科(Thymelaeaceae)ミツマタ属(Edgeworthia)の落葉低木であるミツマタ(Edgeworthia chrysantha)の栽培品種の一つである。基本種であるミツマタが黄色い花を咲かせるのに対し、本品種は萼の内側が赤色から朱赤色を呈する点で異なり、この特徴的な花色から「赤花三椏」とも呼ばれる。戦後、愛媛県において基本種の突然変異として見出されたとされ、以後、観賞用の園芸品種として日本各地で栽培されるようになった。
樹高は1~2メートル程度の落葉低木で、基本種であるミツマタと同様に、枝が必ず三方向に分岐する規則的な分枝様式を示す。葉は互生し、長楕円形から披針形を呈し、両面に灰白色の柔毛をまとう点も基本種と共通する。最大の相違点は花色にあり、萼筒の先端が4裂して花弁状に見える裂片の内面が、基本種の鮮やかな黄色に対し、本品種では赤色から朱赤色を呈する。外面には基本種と同様に白色の絹毛が密生するため、開花前のつぼみの段階では白い綿毛に包まれた姿を示し、開花に伴って内側の赤色が現れる。花期は2月から3月頃で、基本種とほぼ同様の時期に、枝先や葉腋の頭状花序に多数の花を下向きに咲かせる。果実や種子の形態については、基本種と大きな差異は報告されていない。
アカバナミツマタは自然界に自生する野生種ではなく、基本種であるミツマタの栽培下で生じた突然変異に由来する園芸品種であるため、独自の自然分布域を持たない。基本種であるミツマタ自体は中国中南部からヒマラヤ地方を原産地とし、日本には古い時代に渡来して各地で栽培されてきた経緯を持つ。アカバナミツマタは主に接ぎ木によって増殖されるため、台木に用いられた基本種(黄花)の枝が同じ株から伸び出し、黄花と赤花が混在して咲く個体もしばしば見られる。生育環境や適応性は基本種とほぼ同様であり、日当たりの良い緩やかな斜面や、排水の良い土壌を好む。
アカバナミツマタの花色の違いは、萼裂片内面におけるアントシアニン系色素の蓄積に起因すると考えられている。基本種の黄色い花はカロテノイド系またはフラボノイド系の色素によるものとされるのに対し、本品種ではこれに加えてアントシアニンが発現することで赤色を呈すると理解されている。それ以外の生理・化学的特性については、樹皮に強靭な繊維を含む点や、ジンチョウゲ科に特有の二次代謝産物を含む点など、基本種と共通する性質を有する。
アカバナミツマタは、その鮮やかな赤い花色から観賞用の庭木や公園樹として広く植栽される。早春、他の樹木に先立って香り高い花を咲かせることから、季節を告げる花木として庭園や公共緑地で好んで用いられている。基本種であるミツマタが和紙や紙幣用紙の原料として実用的に栽培されるのに対し、アカバナミツマタは主として観賞目的での利用が中心であり、繊維利用を目的とした大規模な栽培は一般的ではない。流通する苗の多くは接ぎ木によって増殖されたものであり、園芸店や植物園などで入手することができる。
アカバナミツマタは、被子植物のうち真正双子葉類(Eudicots)に属し、その中でもバラ類(Rosids)に含まれる。バラ類の中ではアオイ目(Malvales)に位置づけられ、同目に含まれるジンチョウゲ科(Thymelaeaceae)ミツマタ属(Edgeworthia)の一員である。分類学上、アカバナミツマタは独立した種ではなく、ミツマタ(Edgeworthia chrysantha)という一つの種の中で生じた栽培品種として位置づけられ、栽培品種間の分類は、種以下の階級を扱う学術的な分類体系(国際栽培植物命名規約)に基づいて栽培品種名(品種のエピテット)によって区別される。したがって、野生植物における種や変種の分化とは異なり、本品種の成立は人為的な選抜と栽培管理の過程で固定された遺伝的変異に由来するものであり、進化的な観点からは、基本種の持つ遺伝的多様性の一端が、花色に関わる色素合成経路の変化として顕在化した事例といえよう。
第2版:2026-07-30.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.