マツブサ

概要

マツブサ(Schisandra repanda(Siebold&Zucc.)Radlk.)は、マツブサ科(Schisandraceae)マツブサ属(Schisandra)に属するつる性の落葉木本である。日本(本州・四国・九州)と韓国(済州島)に分布する東アジア固有の植物で、樹皮や材にアカマツに似た芳香を持つことが和名の由来となっている。雌雄異株であり、淡黄白色の小さな花を短枝の葉腋から垂れ下げて咲かせる。近縁属であるチョウセンゴミシ属(Schisandra内の別種)と同様に、被子植物の中でも系統的にきわめて古い位置を占めるマツブサ科の代表的な構成種として知られる。

形態的特徴

つるは長く伸び、分枝しながら他の樹木に絡みついて生育する落葉性の木本である。樹皮はアカマツの樹皮に似た外観と香気を持つ。葉は互生し、短枝に束生する形で複数枚がまとまってつく。葉身は卵形で葉質は柔らかく、先端は鋭く尖り、表面は緑色、裏面は淡緑色を呈する。雌雄異株であり、花は淡黄白色で小さく、短枝に束生する葉の付け根から下向きに垂れ下がる形でつく。花は多数の分離した心皮を持つ原始的な花の構造を示し、これはマツブサ科に共通する特徴でもある。果実は液果状の小果が多数集まって穂状に配列する複合果であり、成熟すると赤く色づき、松脂を思わせる芳香を放ちながら甘みを帯び、食用にもなる。

分布と生態

日本では本州、四国、九州に分布し、国外では韓国の済州島(漢拏山)にも自生が確認されている。標高がおよそ600~1400メートル程度の山地帯に生育し、林縁や疎林内など、比較的明るい環境でつるを伸ばして他の樹木に絡みつく形で成長する。雌雄異株であるため、結実には同じ場所に雌株と雄株が存在する必要があり、送粉には小型の昆虫が関与すると考えられている。果実は鳥類などによって採食され、種子散布に寄与しているとみられる。近縁のチョウセンゴミシが朝鮮半島から中国東北部、ロシア極東にかけて分布するのに対し、マツブサはより南方の日本列島と済州島を中心とした、比較的限られた分布域を持つ点が特徴である。

生理・化学的特徴

マツブサ属植物は、リグナン類を中心とした多様な二次代謝産物を含むことで広く知られており、近縁種であるチョウセンゴミシではこれらのリグナン成分が薬理学的にも詳しく研究されている。マツブサ自体についても、樹皮や果実に芳香性の精油成分やリグナン類が含まれることが報告されており、これが樹皮に見られるアカマツに似た香気の一因になっていると考えられる。果実の甘みと芳香は、糖分と揮発性の香気成分の組み合わせによるものであり、食用としての利用を可能にしている。また、樹皮を煎じた液には血行を促進する作用があるとされ、神経痛や冷え症に対する民間療法での利用が伝えられている。

人との関わり

マツブサは、樹皮を煎じた液を入浴剤として用いる民間療法が伝えられており、血行促進作用によって神経痛や冷え性の緩和に効果があるとされ、特に積雪地域における厳寒期の入浴時や、高齢者・幼児の湯冷め予防を目的として利用されてきた歴史を持つ。果実は松脂を思わせる独特の香りとともに甘みを持ち、そのまま食用にされることもある。つる性の樹姿と芳香性を兼ね備えることから、山野草や庭園樹として観賞用に扱われる例も見られる。

系統的位置と進化的特徴

マツブサは、被子植物の中でも真正双子葉類や単子葉類を含む中核群(メサンギオスペルマエ)とは別に、比較的早期に分岐したとされるアウストロバイレヤ目(Austrobaileyales)に位置づけられる。同目はシキミ科(Illiciaceae)を統合したマツブサ科(Schisandraceae)を含み、マツブサ属(Schisandra)は同科の代表的な属の一つである。マツブサ科は、多数の分離した心皮を持つ花の構造や、木部道管を欠く原始的な材の性質など、被子植物の初期の系統に特徴的な形質を保持していることで知られ、被子植物全体の初期進化を理解するうえで重要な系統群として位置づけられている。マツブサ属内では、東アジアを中心に多様化した多数の種が知られており、マツブサはその中でも日本列島から済州島にかけて分布する、比較的限られた地理的範囲を持つ種として認識されている。


第2版:2026-07-30.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















植物用語集 トラヒメバショウ アカバナミツマタ ニラ ミシマサイコ アズキ