
ミシマサイコ(Bupleurum stenophyllum(Nakai)Kitag.)は、セリ科(Apiaceae)ホタルサイコ属(Bupleurum)に属する多年草である。本州から四国・九州にかけての日当たりの良い山野に自生し、根を乾燥させたものが生薬「柴胡(さいこ)」として、解熱・鎮痛などを目的とした漢方処方に古くから用いられてきた。かつては静岡県三島市周辺で集荷されたものが最上品とされ、これが和名の由来となっている。乱獲や生育地の減少により、近年では野生個体群が著しく減少している。
草丈は30~70センチメートル程度の多年草で、根は太く、細長い円錐形から円柱形を呈し、黄褐色で深い皺を持つ。全体に無毛であることが特徴で、茎は細く硬く、直立しながら上部で分枝し、やや小さくジグザグに曲がる姿を示す。葉は根生するものと、茎に互生するものがあり、根生葉には柄があるのに対し、茎葉は無柄である。葉身は単葉で、線形から広線形を呈し、長さ4~15センチメートル、幅0.5~1.5センチメートル程度、全縁で両端が次第に細くなり、5~7本の平行脈が明瞭に走る。花期は6月から11月頃と幅広く、枝先に小型の複散形花序をつけ、黄色い小さな花を多数咲かせる。花弁は内側にわずかに曲がる形状を示す。花序を構成する総苞片は1~3個、小総包片は5個で、花柄よりも長い点が識別上の特徴となる。
日本では本州、四国、九州の丘陵地から山地にかけての、日当たりの良い草地や林縁に自生する。国外では朝鮮半島や中国にも分布するとされる。乾燥した尾根筋や草原状の環境を好み、他の草本と競合しながら生育する。かつては伊豆・箱根・富士山麓など各地に豊富に自生していたが、生薬原料としての採取が明治期以降に急速に進んだ結果、野生個体群は大幅に減少し、現在では多くの地域で稀少な存在となっている。生育地の開発や遷移による環境変化も、個体数減少の一因として指摘されている。
ミシマサイコの根には、サイコサポニンと呼ばれるトリテルペン系配糖体が主要な薬効成分として含まれる。サイコサポニンには抗炎症作用や解熱作用、鎮痛作用のほか、肝機能の保護に関わる作用が報告されており、これらが生薬「柴胡」の薬理学的基盤とされている。このほか、精油成分や多糖類などの含有も知られ、これらが複合的に薬効に関与すると考えられている。近縁種であるオクミシマサイコ(Bupleurum scorzonerifolium)やヒロハミシマサイコ(Bupleurum chinense)も同様にサイコサポニンを含み、中国産の生薬柴胡の原料として広く用いられている。
ミシマサイコの根は、乾燥させたのち生薬「柴胡」として調製され、小柴胡湯、補中益気湯、抑肝散をはじめとする多くの漢方処方に配合されてきた。日本薬局方にも収載される代表的な薬用植物であり、解熱・鎮痛・抗炎症を目的とした処方に古くから利用されてきた歴史を持つ。江戸時代には静岡県三島周辺に集荷された良質な柴胡が「三島物」として評判となり、これが和名の由来となった。野生資源の枯渇を受け、現在では茨城県、宮崎県、鹿児島県、熊本県などを中心に栽培による生薬原料の確保が図られている。
ミシマサイコは、被子植物のうち真正双子葉類(Eudicots)に属し、その中でもキク類(Asterids)に含まれる。キク類の中ではセリ目(Apiales)に位置づけられ、同目はセリ科(Apiaceae)を含む系統群である。セリ科の中でホタルサイコ属(Bupleurum)は、複散形花序と特徴的な小総苞片を持つことで識別される一群を形成し、東アジアからユーラシア大陸にかけて多数の種に分化している。ミシマサイコは、近縁のオクミシマサイコやヒロハミシマサイコと形態的に類似する点が多く、分類学上、これらを広義の一種の変種として扱う見解と、独立種として扱う見解の双方が存在してきた経緯がある。分子系統解析による種間関係の検証は、ホタルサイコ属全体の分類体系を整理するうえで重要な課題として位置づけられている。
第2版:2026-07-30.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.