
トウチャ(Camellia sinensis(L.)Kuntze f. macrophylla(Siebold ex Miq.)Kitam. )は、ツバキ科(Theaceae)ツバキ属(Camellia)に属する常緑性の低木ないし小高木であり、チャノキ(Camellia sinensis)の品種の一つとして扱われてきた分類群である。種小名以下に示される通り、通常のチャノキと比較して顕著に大型の葉を持つことを最大の特徴とする。「唐茶」という和名が示す通り、大陸との交流の中で伝来し栽培されてきた系統に由来するとされ、日本の茶文化史においても独自の位置づけを持つ品種である。
トウチャは、典型的なチャノキと同様に常緑性の低木から小高木であり、栽培条件下では樹高1メートルから数メートルに達する。最大の識別形質は葉の大きさであり、長さ10センチメートルを超えることもある大型の葉を持つ点で、一般的なチャノキの葉よりも明らかに大きい。葉は披針形から長楕円形で先端が尖り、革質で厚みがあり、表面には光沢が見られる。葉縁には細かい鋸歯が並ぶ。花期は秋から初冬にかけてであり、葉腋に白色の五弁花を単生または少数ずつ着ける。花は多数の黄色い雄しべを持ち、芳香を伴うことが多い。果実は蒴果であり、翌年の秋に成熟して裂開し、暗褐色の種子を露出する。
トウチャは、チャノキの栽培品種群の一つとして、主に日本の温暖な地域、とりわけ九州地方を中心に古くから栽培されてきた経緯を持つ。基本種であるチャノキ自体は中国南西部から東南アジア北部にかけての山地を原産地とし、日本には歴史的な交流を通じて伝来したと考えられている。トウチャはその中でも大葉性の系統として、限られた地域の在来茶園や古い栽培地に残存する形で見られることが多い。生育には温暖多雨の気候と、排水良好な弱酸性土壌が適し、深根性で直根が発達することから、いったん定着すると乾燥にもある程度の耐性を示す。
トウチャの葉には、チャノキ全般に共通してカフェインやカテキン類、テアニンといった特徴的な化学成分が含まれる。カテキン類は渋味の主要因であり抗酸化作用を持つことで知られ、テアニンは旨味成分としてチャ属植物に特有のアミノ酸である。大型の葉を持つ品種は、一般に葉肉が厚く、単位重量あたりの成分組成が小葉性の品種とは異なる傾向を示すことがあり、これが製茶時の風味の差異につながるとされる。光合成器官としての葉面積が大きいことは、生育旺盛な樹勢とも関連すると考えられている。
トウチャは、日本における茶栽培の歴史の中で、大陸由来とされる系統の一つとして特に九州地方の一部地域で伝統的に栽培されてきた。大型の葉を持つ特徴から、製茶の際の収量性や加工特性において独自の位置を占め、地域の在来品種として今日まで栽培が継続されている例も見られる。近代以降の茶業においては、収量性や耐病性に優れた育成品種が主流となる中で、トウチャのような在来の大葉系統は、遺伝資源としての価値や、地域固有の茶文化を伝える存在として見直される側面も持つ。
トウチャが属するツバキ科(Theaceae)は、真正双子葉類のキク類に含まれる科であり、ツツジ目(Ericales)を構成する科の一つである。ツバキ科の中でツバキ属(Camellia)はツバキ亜科(Theoideae)に分類され、その中でもチャノキを含む一群はチャ節(Thea)としてまとめられることが多い。チャノキ(Camellia sinensis)は、種内に形態的変異の幅が大きいことで知られ、葉の大きさや樹形の違いに基づいて複数の品種(フォルマ)や変種が記載されてきた歴史を持つ。トウチャに与えられたmacrophyllaという品種名も、こうした種内の葉形変異を反映して記載されたものである。もっとも、分子系統学的研究の進展に伴い、チャノキ種内における葉形や樹形に基づく品種区分については、必ずしも遺伝的に明確に分岐した系統を反映するものではなく、連続的な変異の一部として捉えるべきであるとの見解も示されており、現在の分類学的資料の中には、この品種名を独立した分類単位としてではなく、チャノキという種の変異の範囲内に含めて扱う立場も存在する。
第2版:2026-07-31.
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