
ダンドク(檀特、学名:Canna indica L.)は、カンナ科(Cannaceae)カンナ属(Canna)に属する多年生草本植物である。命名者はリンネで、種小名 indica は「インドの」を意味するが、これはコロンブス以降の時代にアメリカ大陸をインドと混同した命名慣習に由来するものであり、インド原産を意味しない。英名は Indian shot(インディアン・ショット)といい、種子が散弾銃の弾丸に似ていることに由来する。
一般には「カンナ」の名称で広く知られているが、日本では古くから野生化したものや原種系統を特にダンドクと呼ぶ場合がある。現在一般に「カンナ(ハナカンナ)」と呼ばれる園芸植物群は、C. indica を主な親として複数種を交雑させた園芸雑種群(Canna × hybrida など)であり、ダンドク自体とは区別される。
原産地はカリブ諸島および中央アメリカ・南アメリカの熱帯域である。コロンブスのアメリカ到達後、16世紀中にはタバコやヒマワリとともにヨーロッパに導入された植物の一つであり、現在では熱帯・亜熱帯から温帯に至るまで世界各地で栽培・帰化している。日本へは江戸時代初期(17世紀初頭)に観賞用として渡来し、現在では薩南諸島から沖縄を中心に野生化が見られる。
カンナ属は単子葉植物の中でも独特な花構造を持つ植物群であり、バショウ科やショウガ科などに近縁な系統に属する。
ダンドクは高さ50cm〜2m(まれに250cm)程度に達する大型多年草であり、地下にショウガに似た肥大した塊茎(根茎)を持つ。この塊茎は横方向に発達し、栄養繁殖によって群落を形成する。
地上茎は直立し、柔らかい葉鞘が重なり合うことで偽茎状構造を形成する。これはバショウ属植物などにも見られる単子葉植物特有の構造である。
葉は互生し、葉身は長さ30〜60cm・幅10〜20cmの卵状長円形〜長円形を示し、先端は尖り、基部は茎を抱く。葉脈は平行脈であり、中央脈が著しく発達する。葉色は上面が緑色、下面と縁は緑色または紫色を帯びるものがある。葉鞘は緑色〜紫色。
花は茎頂に総状花序をなし、さそり形集散花序(cincinni)から構成される。花期は日本では主に9〜10月で、亜熱帯では6〜9月、熱帯では周年開花する。花色は赤色から橙黄色(アプリコット黄色)を基本とし、黄色の変種(キバナダンドク var. flava)や紫色の変種なども知られる。カンナ属の花において外見上大型花弁を持つように見える部分の大部分は雄しべが花弁状に変化した仮雄しべであり、ダンドク(C. indica)では2〜3個付く。真正の機能的雄しべは1本のみが残存し、花糸が赤橙色の披針形を呈する。花柱も花弁状に扁平化している。
子房は下位で、球形、いぼ状突起を持つ。果実は広卵形の蒴果(長さ1.2〜1.8cm)となる。種子は直径5〜7mmの球形で非常に硬い黒色の外種皮を持ち、この形状と硬さが英名 Indian shot の由来となっている。硬い種皮により長期保存性に優れ、古いミイラの副葬品からも出土した記録がある。
ダンドクはカリブ諸島・中南米熱帯域を起源とするが、人為的移動によって世界中へ広がった。現在ではアジア、アフリカ、オセアニア、ヨーロッパ南部など広範囲で栽培・野生化している。日本では主に南西諸島・九州南部に野生化が見られる。
高温多湿環境を好み、水辺や湿地周辺でも良好に生育する。一方で比較的乾燥にも耐性を持ち、強健な植物として知られる。日照要求性が高く、強い光環境で旺盛な成長を示す。適した土壌は水はけの良い酸性寄りの土壌であるが、砂質・粘土質・ローム質など多様な土壌に適応する。
地下塊茎による栄養繁殖能力が非常に高く、群落形成力に優れる。このため一部地域では帰化植物として拡大し、在来植生へ影響を与える場合もある。
送粉には原産地(アメリカ大陸の熱帯域)ではハチドリ類が重要な送粉者として知られており、鮮やかな花色と豊富な蜜は鳥媒花的特徴を示している。原産地域外ではハチ類やチョウ類などの昆虫が送粉に関与する。
ダンドクは高い光合成能力を持つ大型草本であり、旺盛な栄養成長を示す。地下塊茎には大量のデンプンが蓄積され、この貯蔵養分によって急速な地上部再生が可能となる。
塊茎中のデンプンは粒径が大きく(通常のデンプン粒より大型)、消化性にも特徴がある。このため南米(アンデス地域)やアジアの一部地域では食用デンプン源として利用されてきた。「カンナ澱粉(Queensland arrowroot)」は高純度デンプンとして知られ、英名でも arrowroot(アロールート)の別名を持つ。
葉にはアントシアニンやカロテノイドなどの色素成分が存在し、葉色変異形成に関与している。花色形成にもアントシアニン系色素が重要な役割を果たす。カンナ属の花は左右非対称(非対称花)であり、被子植物の中でも真の非対称花を持つ稀な科として学術的関心を集めている。
熱帯性植物として高温条件下で代謝活性が高く、20〜35℃程度で最も旺盛に成長する。一方で霜害には弱く、低温下では地上部が枯死する。ただし地下塊茎は比較的耐寒性を持ち、温暖地では越冬可能である。
ダンドクは16世紀にヨーロッパへ導入された後、観賞植物として世界中で利用されてきた。特に19世紀にヨーロッパ(フランス・ベルギーなど)で園芸育種が盛んに行われ、ダンドク(C. indica)を主な親として C. glauca・C. iridiflora などとの交雑による多数の大型花品種が作出された。これらの総称が現在「カンナ(ハナカンナ、Canna × hybrida)」と呼ばれる園芸雑種群である。
日本へは江戸時代初期に渡来し、古くは「カラタチバナ」などとも呼ばれたとされる。現在では公園植栽、道路景観、庭園植物として広く利用され、熱帯的景観演出植物としても重要である。
食用利用も歴史的に重要であり、アンデス地域などでは地下塊茎からデンプンを採取して食用・澱粉原料として利用されてきた。中国や東南アジアでも澱粉原料植物として栽培された例がある。
また、近年では水質浄化植物としての利用も注目されており、成長速度の速さと養分吸収能力の高さから、人工湿地や排水処理システムに導入される場合がある。
種子は非常に硬く、かつて装飾用ビーズや打楽器(マラカス様のもの)の充填材としても用いられた記録がある。
ダンドクはカンナ科(Cannaceae)カンナ属(Canna)に属する。カンナ科は単子葉植物群の中でショウガ目(Zingiberales)に分類され、バショウ科、ショウガ科、ゴクラクチョウカ科(ストレリチア科)などと近縁関係を持つ。カンナ科はカンナ属のみを含む単型科(monotypic family)である。
カンナ属は伝統的分類では10〜20種程度を含む比較的小さな属とされているが、分類の整理は現在も進行中である。花構造の高度な特殊化(雄しべの花弁化、非対称花)は、ショウガ目植物に共通した進化傾向の一つであり、カンナ属はその最も顕著な例の一つとして位置づけられる。唯一機能する雄しべも花糸が幅広く花弁状となっており、真の花弁(花冠裂片)との区別が外見上困難なほど変形している。
現在の栽培品種群は複数種の交雑による複雑な起源を持ち、倍数化や種間交雑による形態多様化も顕著。
大型地下塊茎の発達は、乾季や低温期を地下器官で耐えることで多年生生活を可能にする重要な適応戦略であり、熱帯起源植物でありながら温帯域へ進出できた背景に大きく関与している。
第1版:2006-08.
第2版:2026-05-12.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.