カンゾウ

概要

カンゾウ(甘草,Glycyrrhiza sp.)は、マメ目(Fabales)マメ科(Fabaceae)カンゾウ属(Glycyrrhiza)に属する多年草の総称であり、生薬・薬用植物として世界的に最も重要な植物のひとつである。sp. は、ラテン語 species(種)の略であり、属までは分かっているが、種は特定されていない、あるいは特定していない個体・標本を意味する表記。主に生薬として利用される種はウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis Fisch. ex DC.)およびスペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra L.)であり、日本薬局方においてもこれら2種(またはその種間雑種)の根および根茎が「甘草」として収載されている。カンゾウの根に含まれるグリチルリチン(glycyrrhizin)はショ糖の約150〜250倍に相当する甘味を呈し、この甘味が「甘草」の名の由来となっている。東洋医学においては極めて使用頻度の高い生薬であり、漢方処方の多くにカンゾウが配合されている。なお、ユリ目ツルボラン科のカンゾウ(萱草、Hemerocallis fulva)とは全くの別種であり、混同を避ける必要がある。

形態的特徴

カンゾウ属(Glycyrrhiza)の植物は直立する多年草であり、草丈はおおよそ50〜150cmに達する。茎は木質化する傾向があり、基部では特に硬くなる。根は深く地中に伸び、主根は直径1〜3cm、長さ1m以上に達することもある。根および根茎は外皮が灰褐色〜暗褐色を呈し、内部は黄色を帯びる。この黄色は薬効成分であるフラボノイド類に由来する。

葉は奇数羽状複葉で互生し、小葉は卵形〜楕円形で5〜17枚程度が対生する。小葉の表面には腺点が散在し、粘着性をもつ腺毛が生じる種もある。托葉は小さく早落性である。

花は葉腋から総状花序を伸ばして多数の花を咲かせる。花はマメ科に特徴的な蝶形花であり、花色は種によって異なるが淡紫色〜紫色が多く、まれに白色に近いものもある。萼は筒状で5裂し、腺毛を有する場合がある。雄蕊は10本で二体雄蕊(9本+1本)を形成する。果実は扁平な豆果(莢果)であり、種によって直線状・湾曲状・螺旋状など形態が異なる。種子は数個〜十数個含まれる。開花期は種・産地によって異なるが、おおむね6〜8月である。

分布と生態

カンゾウ属(Glycyrrhiza)は世界に約20種が分布し、ユーラシア大陸・北アフリカ・北アメリカ・オーストラリアなど広範な地域に見られる。主要薬用種であるウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)は中国北部・モンゴル・シベリアなどの内陸乾燥・半乾燥地帯に広く分布し、スペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra)は地中海沿岸から中央アジアにかけて分布する。

生育環境としては乾燥した草原、河川沿いの砂礫地、荒地など、比較的乾燥した開けた環境を好む。深根性であるため乾燥耐性が高く、塩類集積地でも生育できる種がある。根粒菌と共生する根粒を形成するため、窒素固定能力をもち、やせた土壌でも生育可能である。根茎によって旺盛に栄養繁殖し、群落を形成する。

現在、天然資源の乱獲による個体群の減少が中国・中央アジアで深刻な問題となっており、野生資源の保護と栽培生産の拡大が課題となっている。日本では主に中国・ロシア・アフガニスタンなどから原料生薬を輸入しており、国内での栽培研究も進められている。

生理・化学的特徴

カンゾウの最も重要な化学成分はトリテルペノイドサポニンであるグリチルリチン(glycyrrhizin)であり、根の乾燥重量の2〜15%を占める。グリチルリチンはグリチルレチン酸(glycyrrhetic acid)にグルクロン酸2分子が結合した配糖体であり、その甘味はショ糖の150〜250倍に相当する。グリチルリチンは抗炎症・抗アレルギー・抗ウイルス・肝保護などの多彩な薬理活性を有することが報告されており、現代医薬品の原料としても広く利用されている。

フラボノイド類も主要成分のひとつであり、リクイリチン(liquiritin)、イソリクイリチン(isoliquiritin)、グラブリジン(glabridin)などが同定されている。これらは抗酸化・抗菌・美白・エストロゲン様作用などの活性をもつことが示されており、化粧品・食品素材としての利用も進んでいる。特にグラブリジンはスペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra)に多く含まれ、メラニン生成抑制作用から美白化粧品成分として広く利用されている。

その他の成分としてはクマリン類、多糖類、アミノ酸類なども含まれており、これらが複合的に薬理効果を発揮すると考えられている。一方、グリチルリチンの過剰摂取は偽性アルドステロン症(血圧上昇・低カリウム血症・浮腫)を引き起こすことが知られており、長期大量使用には注意が必要である。

人との関わり

カンゾウは人類が利用してきた薬用植物の中でも特に歴史の長いもののひとつである。中国では少なくとも2000年以上前から「甘草」として本草書に記載されており、後漢時代の薬学書「神農本草経」においても上品(じょうほん)に分類される最重要薬物のひとつとして扱われている。現在においても漢方医学・中医学における使用頻度は全生薬の中で最も高い部類に属し、補中益気湯・芍薬甘草湯・小柴胡湯など多数の漢方処方に配合されている。漢方では主に「諸薬を調和する」「補気・解毒」などの効能をもつとされる。

西洋においても古くからリコリス(licorice / liquorice)として知られ、古代エジプト・ギリシャ・ローマの医学書にその利用が記録されている。現代では菓子・飲料・タバコの香味料としても広く利用されており、リコリスキャンディーはヨーロッパ・北アメリカで広く親しまれている。

医薬品としては、グリチルリチン製剤が肝炎治療薬(強力ネオミノファーゲンシー等)として日本で広く使用されているほか、抗炎症薬・粘膜保護薬の原料としても利用される。化粧品分野ではグラブリジンやグリチルリチン酸ジカリウムが美白・抗炎症成分として配合製品が多数上市されている。食品添加物としても甘味料・矯味剤として広く認可・利用されており、カンゾウは医薬・食品・化粧品の三分野にまたがる極めて経済的重要性の高い植物素材である。

系統的位置と進化的特徴

カンゾウ属(Glycyrrhiza)は、被子植物の中のクレードである真正双子葉類(Eudicots)、さらにロシッド類(Rosids)の中のファバリッド類(Fabids)に包含されるマメ目(Fabales)マメ科(Fabaceae)に位置づけられる。マメ科はキク類(Asterids)ではなくロシッド類に属する大科であり、約800属・約20000種を擁する被子植物第3位の大科である。

カンゾウ属(Glycyrrhiza)はマメ科の中のマメ亜科(Papilionoideae)に分類される。マメ亜科は蝶形花冠をもつことを特徴とし、マメ科の中で最大の亜科を構成する。分子系統解析により、カンゾウ属はガレゲア連(Galegeae)に含まれることが示されており、ゲニステア連やファゼオルス連とは系統的に区別される。

マメ科全体の進化的特徴として、根粒菌(リゾビウム類)との共生による窒素固定能力が挙げられ、カンゾウ属もこの能力を有する。この共生系はマメ科の進化における重要な革新のひとつとされ、やせた土壌への適応や生態系における窒素循環への貢献という観点から進化生態学的に注目されている。

カンゾウ属(Glycyrrhiza)のトリテルペノイドサポニンであるグリチルリチンの生合成経路は、β-アミリン合成酵素を起点とするメバロン酸経路に由来することが明らかにされており、同様の経路はマメ科の他の属にも共通する。しかしグリチルリチンという特定の構造をもつサポニンの蓄積はカンゾウ属に特徴的であり、この生合成系の獲得が本属の薬用的重要性の化学的基盤となっている。こうした二次代謝産物の多様性は、草食動物や病原菌に対する防御機構として進化した形質として理解されている。


第2版:2026-06-27.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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