ヒロハノレンリソウ

概要

ヒロハノレンリソウ(学名:Lathyrus latifolius L.)は、マメ科マメ亜科(Faboideae)レンリソウ属(Lathyrus)に属するつる性多年草であり、ヨーロッパ南部から地中海沿岸地域を原産とする植物である。英名では "Perennial pea" や "Everlasting pea" と呼ばれ、日本では「宿根スイートピー」の名でも流通している。

本種は一年草であるスイートピー(Lathyrus odoratus)に近縁であるが、地下部に宿根性を持ち、毎年新たに茎を伸ばして開花する点が大きな特徴である。花にはスイートピーほど強い芳香はないが、丈夫で栽培容易なため、観賞用つる植物として広く利用される。日本へは明治時代頃に観賞植物として導入されたと考えられており、一部では逸出して半野生化している。フェンスやアーチに絡みながら長期間開花することから、ナチュラルガーデンや洋風庭園で好まれる植物である。

形態的特徴

ヒロハノレンリソウは長さ2〜3メートル以上に達するつる性多年草である。茎は細長く、明瞭な翼(よく)が縦走する扁平な構造を持ち、他物に巻きひげを絡ませながら伸長する。この翼はレンリソウ属の識別において重要な形質の一つである。

葉は互生し、1対の小葉を持ち、葉軸の先端が巻きひげに変化した構造を持つ。小葉は披針形から楕円形で、スイートピーに比べて幅広い。この特徴が「広葉(ヒロハ)」の名の由来となっている。巻きひげは周囲の植物や支柱へ巻き付き、登攀を補助する。

花は葉腋から伸びる総状花序に5〜15個程度付き、蝶形花を形成する。花色は紅紫色、桃色、白色など多様であり、花径は2〜3センチメートル程度である。スイートピーに似た優雅な花形を持つが、花弁はやや厚みがあり、香りは弱いかほとんどない。

果実は細長い豆果であり、成熟すると裂開して種子を散布する。地下部には宿根性の肥厚した根を持ち、冬季に地上部が枯れても翌春に再び萌芽する。

分布と生態

原産地はヨーロッパ南部から地中海沿岸地域とされる。現在では観賞植物として世界各地で栽培され、一部地域では野生化している。

日本では庭園植物として栽培されるほか、空き地や河川敷などで逸出個体が見られることもある。冷涼から温暖な気候を好み、日当たりと排水の良い場所で旺盛に生育する。

つる植物として他物を利用して成長するため、草地周辺や低木群落の縁辺部などに定着しやすい。多年生であるため、一度定着すると長期間同じ場所で生育する。

花期は初夏から夏にかけて長く、ハナバチ類を中心とする昆虫による送粉を受ける。マメ科植物として根粒菌との共生能力を持ち、窒素固定によって比較的痩せた土壌でも生育可能である。

生理・化学的特徴

ヒロハノレンリソウはC3型光合成植物であり、温帯気候下で良好な生育を示す。地下部に栄養を蓄積する宿根性を持つため、冬季休眠後も翌年再生可能である。

マメ科植物として根粒菌と共生し、大気中窒素を固定する能力を持つ。このため比較的貧栄養な土壌にも適応可能であり、園芸植物として管理が容易である。

化学成分として、レンリソウ属植物には神経毒性アミノ酸であるβ-ODAP(β-N-オキサリル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸)が含まれることが知られており、ヒロハノレンリソウにも同成分の含有が報告されている。この成分を大量に摂取すると、下肢の痙性麻痺を主症状とするラチリズム(lathyrism)を引き起こす危険性があり、観賞植物として扱う際にも注意が必要である。

花にはアントシアニン系色素が含まれ、紫紅色や桃色を呈する。スイートピーほど香気成分は発達しておらず、視覚的送粉誘引への依存度が高いと考えられる。

巻きひげによる登攀機能は、限られた支持組織投資で効率的に光環境を獲得する適応形質であり、つる植物に広く見られる進化的戦略の一つである。

人との関わり

ヒロハノレンリソウは主として観賞植物として利用される。フェンス、アーチ、トレリスなどへ誘引して栽培されることが多く、長期間花を楽しめる点が評価されている。

特に、宿根スイートピーの名で園芸市場に流通し、一年草スイートピーより丈夫で管理しやすい植物として人気がある。切り花として利用される場合もある。

ただし、前述のとおりβ-ODAPを含む有毒植物であるため、種子や植物体の誤食には注意が必要である。食用とした記録はほとんどなく、観賞専用として扱うことが推奨される。

生育旺盛なため、一部地域では逸出帰化植物として扱われることもある。繁茂すると周囲植物を覆う場合があり、自然植生への影響が懸念されることもある。

また、マメ科植物として蜜源植物の役割も担い、ハナバチ類をはじめとする昆虫相への貢献も認められる。

系統的位置と進化的特徴

ヒロハノレンリソウはマメ科マメ亜科(Faboideae)レンリソウ属(Lathyrus)に属する。レンリソウ属にはスイートピー(L. odoratus)、ハマエンドウ(L. japonicus)など多数の種が含まれ、主として北半球温帯域に分布する。

本属植物は巻きひげを発達させたつる性草本として進化しており、森林周縁部や草原環境に適応してきた。ヒロハノレンリソウもその一員として、他植物を利用して上方へ伸長する戦略を持つ。

宿根性を持つことは一年草型スイートピーとの差異として重要であり、地下部への長期的資源蓄積による多年生生活史への適応を示している。これにより攪乱や冬季低温に対する耐性が高まり、安定した個体群維持が可能となっている。

分子系統学的には、レンリソウ属はマメ科の中でも比較的派生的なグループに属し、蝶形花、巻きひげ、窒素固定共生など、マメ科植物の典型的特徴を高度に備えた系統群とされる。β-ODAPのような神経毒性化合物の獲得もまた、植食圧に対する化学防御として進化した形質と考えられる。


第1版:2021-08.
第2版:2026-05-26.

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