
シロテツ(白鉄)は、ミカン科に属する常緑性の木本植物であり、小笠原諸島の父島列島に分布する日本の固有種である。学名はMelicope quadrilocularisとされ、かつてはシロテツ属(Boninia)という小笠原固有の独立属に分類されていたが、現在の分類体系ではアワダン属(Melicope)に統合されている。和名の由来は、近縁種であるアカテツに対して材が白いことによるとされ、また樹皮が白っぽく材質が硬いことから、英名のホワイト・アイアンウッドに通じる呼び名が当てられたとも考えられている。
シロテツは樹高1~3メートルほどの常緑低木性の樹木として生育するが、文献によっては高さ3~5メートルあるいは7メートルに達するともされ、生育環境によって樹形に幅があるとみられる。全体に毛を欠き、枝は灰白色を呈する。葉は対生し、柄を持つやや小判形ないし楕円形で、革質で表面に強い光沢があり、長さは2.5~15センチメートル程度とされる。葉の先端はつぶれたような形となり、基部はくさび形である。
枝先の葉腋からは短い円錐花序を出し、星形で4弁の小さな白い花を多数つける。シロテツは雌雄異株であり、雌花と雄花は別々の株に咲く。雌花では雌しべの柱頭がはっきりと突き出しており、これにより雌株を見分けやすいとされる。果実は扁球形で、熟すと4裂し、内部には光沢のある黒い球形の種子が含まれる。
シロテツは小笠原諸島の中でも父島列島にのみ分布する固有種であり、近縁のオオバシロテツが小笠原諸島全域に広く分布するのに対し、シロテツの分布域はより限定的である。父島では乾性低木林の中で多く見られ、長崎周辺や東平周辺といった限られたエリアに自生することが知られている。花期は4月頃であり、この時期に多数の小さな花を咲かせる。雌雄異株であるため、開花した個体の柱頭の様子から雌株か雄株かを観察によって判別することができる。
シロテツはミカン科に特徴的な性質として、葉の表面に油点を有しており、精油成分を含んでいる。そのため葉を破ると芳香が生じる。このような精油の産生は、ミカン科植物全般に広く見られる特徴であり、温帯から熱帯にかけて分布するこの科の多くの種が、芳香性の精油や独特の臭気を持つ成分を体内に蓄えている。シロテツにおいても、こうした精油成分が葉の油点に蓄積され、植食者に対する防御的な機能を担っている可能性が考えられる。
シロテツは小笠原諸島の固有種であり、特に父島列島という限られた地域にのみ自生することから、植物地理学的に重要な存在として注目されている。樹皮の色や材の硬さに由来する和名からもうかがえるように、材質に特徴があることが古くから認識されてきたと考えられる。近縁種であるアツバシロテツは環境省により絶滅危惧ⅠB類に指定されており、小笠原の固有植物群の保全の観点から、シロテツを含むこのグループ全体の生育状況や保護に関心が向けられている。
シロテツは被子植物の中でも真正双子葉類に属し、その中のバラ類、さらにムクロジ目に含まれるミカン科の植物である。ミカン科は約150属900種からなる大きな科であり、シロテツはこの中でアワダン属(Melicope)に分類される。
シロテツは従来、小笠原諸島に固有な属の一つであるシロテツ属(Boninia)として、オオバシロテツとともに独立した属を構成していた。シロテツ属はハワイ産のパレア属(Palea)に最も近縁な関係にあるとされるが、雄しべの数がシロテツ属では4本であるのに対しパレア属では8本であるという形態的な違いがあり、この点が小笠原固有の属として区別される根拠の一つとなっていた。しかし、分子系統学的な知見の蓄積により、シロテツ属はより広範なアワダン属の中に含まれることが明らかとなり、現在ではアワダン属の一種として扱われている。同じアワダン属には、小笠原に自生するムニンゴシュユなども含まれており、シロテツは小笠原諸島という海洋島の環境において、近縁のアワダン属の仲間とともに固有の進化を遂げてきた系統の一つと位置づけられる。
第1版:2021-07.
第2版:2026-06-13.
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