マイカイ

概要

マイカイ(Rosa roxburghii Tratt.)は、バラ目(Rosales)バラ科(Rosaceae)バラ属(Rosa)に属する落葉低木である。中国南西部(四川省・貴州省・雲南省など)を原産とし、日本には古くから観賞用・薬用植物として渡来した。和名「マイカイ」は漢名「玫瑰」の音読みに由来するとも言われる。中国では「刺梨(ツーリー)」とも呼ばれる。一重咲きの野生型は Rosa roxburghii f. normalis Rehder et Wilson とされ、日本で古来観賞されてきた八重咲きの栽培品は Rosa roxburghii f. roxburghii に相当する。花は美しく芳香があり、果実はビタミンC含量が極めて高いことで知られ、近年は健康食品・機能性食品としても注目されている。

形態的特徴

マイカイは樹高1〜2メートル程度の落葉低木であり、枝は横に広がりながら叢生する。枝には対生または散生する扁平な鋭いとげが多数あり、特に葉柄基部に1対のとげが発達する。樹皮は灰褐色でなめらかであるが、老木では縦に薄く剥がれることがある。

葉は奇数羽状複葉で互生し、小葉は9〜15枚と他のバラ属植物に比べて小葉数が多いことが特徴のひとつである。小葉は楕円形から長楕円形で、長さ1〜3センチメートル、縁には細かな鋸歯がある。葉の表面は濃緑色で光沢があり、両面ともほぼ無毛またはやや短毛がある。托葉は葉柄に癒合し、縁に腺毛を伴うことがある。

花は枝先に単生または少数が集まってつく。八重咲き品(栽培型)の花径は5〜8センチメートルほどで、花弁は多数重なり合い、色は濃いピンク色から淡紅紫色を呈し、芳香が強い。一重咲きの野生型では花弁は5枚で、色はやや淡いピンク色となる。萼片は5枚で先端が長く尾状に伸び、羽状の裂片をもつ。雄しべは多数あり、花托の縁に輪生する。開花期は5〜6月ごろである。

果実は偽果(バラ科特有の花托が発達して果実状になったもの、いわゆるローズヒップに相当)であり、扁球形から球形で直径2〜4センチメートルに達する大型のものである。果実の表面には宿存する萼片基部に由来する多数の硬いとげ状の突起が密生しており、これが「刺梨」(とげのある梨)という中国名の由来となっている。熟すと黄橙色から橙赤色に色づく。果実内部には多数の痩果(真の果実)が含まれ、白色の毛が密生している。

分布と生態

マイカイの自然分布の中心は中国南西部であり、四川省・貴州省・雲南省・湖南省・湖北省・広西チワン族自治区などに広く自生している。標高500〜2500メートルの山地、谷沿いの斜面、林縁、低木林中などに生育し、日当たりのよい環境を好む。貴州省では特に分布が豊富で、同省を代表する果樹資源植物のひとつとして位置づけられている。

日本には江戸時代以前に中国から渡来したとされ、古くから庭園や寺院に植栽されてきた。日本国内では自然状態での野生化はほとんど見られず、栽培植物として存在するものがほとんどである。

落葉低木として春に葉を展開し、5〜6月に開花する。花には芳香があり、ミツバチ類やハナアブ類などの送粉昆虫が訪花する。果実は秋に成熟し、野生地域では鳥類や哺乳類が果実を採食することで種子が散布されると考えられる。乾燥にはやや弱く、適度な湿潤と水はけのよい土壌を好む。耐寒性はバラ属の中では中程度であり、日本の本州以南では比較的容易に栽培できる。

生理・化学的特徴

マイカイの最も顕著な化学的特徴は、果実に含まれる極めて高いビタミンC(アスコルビン酸)含量である。果実100グラムあたりのビタミンC含量は数百ミリグラムから2000ミリグラムを超えるものまで報告例があり、これはレモンの数十倍に相当する値である。この高いビタミンC含量は、マイカイが健康食品・機能性食品素材として注目される最大の根拠となっている。

ビタミンC以外にも、果実にはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性が高いことが報告されており、活性酸素消去能(抗酸化活性)が注目されている。また、フラボノイド類、タンニン類、有機酸類、ポリフェノール類なども豊富に含まれており、これらが相乗的な抗酸化作用を発揮していると考えられている。

花には芳香成分として各種テルペン類・フェニルプロパノイド類が含まれており、香料原料としての利用も知られている。根・茎・葉にはタンニン類のほか、トリテルペン系化合物(ウルソール酸など)が含まれることが報告されている。

種子には脂肪酸(リノール酸・オレイン酸など)が含まれ、バラ科植物に共通してシアン配糖体(アミグダリン類)を微量含む可能性があるため、種子の大量摂取には注意が必要とされる。

人との関わり

マイカイは中国において古くから観賞・薬用・食用の三つの用途で人々に利用されてきた歴史をもつ植物である。

観賞用としては、八重咲きの美しい花と強い芳香が古来から珍重され、中国では宋代・明代の古典にもその記述が見られる。日本へも観賞用として伝来し、江戸時代の本草書や園芸書にも記録されている。現代においても庭木・生け花材料として用いられることがある。

薬用としては、中国伝統医学において花・果実・根がそれぞれ異なる生薬として用いられてきた。花は「刺梨花」または「送春花」と呼ばれ、健胃・消化促進・解毒などの効能があるとされる。果実は「刺梨」と呼ばれ、消食健胃・収渋止痢などに用いられてきた。根は「刺梨根」として、下痢・脱肛・月経不順などに応用される記録がある。

食用・健康食品としては、近年中国、特に貴州省において刺梨(マイカイ果実)を原料としたジュース・ジャム・果実酒・乾燥果実・サプリメントなどの加工食品産業が急速に発展している。貴州省では刺梨が地域振興・農村産業化の重要作物として位置づけられており、大規模な栽培が行われている。高いビタミンC含量と抗酸化活性を売りにした機能性食品としての市場は拡大を続けており、国際的にも注目されるようになっている。

日本では現在のところ大規模な産業的利用は見られないが、バラ愛好家の間で栽培されるほか、一部の薬草園や植物園で保存・展示されている。

系統的位置と進化的特徴

APG体系においてマイカイは、真正双子葉類(Eudicots)の中の核真正双子葉類(Core Eudicots)に含まれ、さらにバラ類(Rosids)の中のファバ類(Fabids)に位置するバラ目(Rosales)バラ科(Rosaceae)バラ属(Rosa)に分類される。

バラ科は世界でおよそ90属3000種以上を含む大科であり、バラ亜科(Rosoideae)・キンバイザサ亜科(Dryadoideae)・ナシ亜科(Amygdaloideae)などに大別される。バラ属(Rosa)はバラ亜科(Rosoideae)に属し、北半球の温帯から亜熱帯にかけて約150〜200種が分布する大属である。

マイカイ(Rosa roxburghii)はバラ属の中で形態的に特異な位置を占める種として注目されてきた。最も際立った形態的特徴として、小葉数が9〜15枚と他の多くのバラ属植物よりも多いこと、果実表面に多数のとげ状突起が密生すること、萼片の形態が複雑であることなどが挙げられ、古い時代にはマイカイを独立の属(Platyrhodon Hurst)として扱う見解も存在した。

分子系統解析の結果はマイカイがバラ属内に含まれることを支持しつつも、バラ属の中で比較的早い段階に分岐した系統であることを示しており、バラ属の初期進化を理解するうえで重要な位置を占める種として評価されている。果実のとげ状突起(宿存萼の変形)は種子散布に関連した適応進化の産物と考えられており、動物散布(主に哺乳類)への適応を示す可能性が指摘されている。

バラ目全体はバラ類の中でも多様性に富む目であり、バラ科のほかにもクワ科(Moraceae)・イラクサ科(Urticaceae)・ニレ科(Ulmaceae)・クロウメモドキ科(Rhamnaceae)などを含む。これらはいずれも木本〜草本の幅広い生活形をもち、バラ類(Rosids)全体の多様化を支えた進化的に重要なグループのひとつである。マイカイはその中で、東アジアという特定の地域における植物多様化の産物として、バラ属進化史における特異な一系統を形成している。


第2版:2026-06-28.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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