テリハボク

概要

テリハボク(照葉木)は、テリハボク科(Calophyllaceae)テリハボク属(Calophyllum)に属する常緑高木であり、学名をCalophyllum inophyllum L. という。属名のCalophyllumはギリシャ語で「美しい葉」を意味し、その光沢ある革質の葉の美しさに由来する。リンネの『植物の種』(1753年)に記載された植物のひとつであり、植物分類学史上でも古くから知られた種である。

和名「テリハボク」は「照り葉木」と書き、葉面に強い光沢があることを指す。沖縄県の方言名としてヤラブ、ヤラボ、ヤナブ、タラブなど多様な呼称があり、与論島ではドクギとも呼ばれる。小笠原諸島ではタマナと呼ばれ地域住民に親しまれてきた。英名はアレクサンドリアン・ローレル(Alexandrian laurel)、インディアン・ローレル(Indian laurel)、カマラ・ツリー(kamala tree)など複数あり、国際的な商業名としてはカロフィラム(Calophyllum)が広く通用している。

インド洋・太平洋の熱帯・亜熱帯海岸域に広く分布する代表的な沿岸性高木であり、その種子から採取される「タマヌオイル(tamanu oil)」は古来より伝統薬・染料として珍重されてきた。現代においても化粧品原料・バイオ燃料の原料として世界的に注目される有用植物である。

形態的特徴

成長は比較的遅いものの、成熟した個体は樹高10〜20メートル、胸高直径1メートル前後に達する大高木となる。幹は直立し、主根が深く地中に伸びる直根性の根系をもつことが特徴で、これが強風時の倒木抵抗に大きく寄与する。樹皮は黒灰色ないし暗褐色で、縦横に不規則な裂け目が目立ち、粗い外観を呈する。枝は旺盛に横に広がる傾向があり、「暴れ木」ともいわれるほど側枝の成長が著しいため、街路樹として管理する際には適切な剪定が必要とされる。

葉は対生し、革質で厚みがあり、楕円形で長さ10〜20センチメートル、幅5〜8センチメートルほど。先端は丸みを帯びるかわずかにくぼみ、基部はくさび形に葉柄に流れる。葉の表面には顕著な光沢があり、和名の由来となっている。葉の裏面は光沢をやや欠き、多数の平行な側脈が中脈から等間隔に走るのが本種の重要な識別形質であり、外見が似るフクギ(Garcinia subelliptica)との区別点ともなる。縁は全縁である。

花は両性花で、葉腋から総状花序を出し、通常7〜13個の花を着ける。花期は主に6〜8月(地域によっては数回開花することもある)。花は直径2〜3センチメートルで芳香があり、花弁は白く4個、萼片も白く大2枚・小2枚の計4個からなるため花弁と萼が一見8枚に見える。雄蕊は黄色く多数あり、雌蕊は1個、子房は赤みを帯びる。果実は球形の核果で直径3〜4センチメートル、緑色から赤褐色へと熟す。内部にはコルク質の硬い殻があり、その中に大きな種子を1個含む。果期は11〜12月ごろ。種子は油分を豊富に含む。

分布と生態

インド洋・太平洋の熱帯・亜熱帯域に広く自然分布し、東アフリカ・マダガスカルから南インド・スリランカ、東南アジア全域、フィリピン、ニューギニア、北部オーストラリア、ポリネシア・ミクロネシアなど太平洋諸島に至るきわめて広大な分布域をもつ。世界の熱帯・亜熱帯地域でも広く植栽されている。

日本では南西諸島(与論島・沖縄諸島・南大東島・先島諸島)および小笠原諸島に自生記録があるが、その一部は人為的な移植に由来する可能性も指摘されている。日本国内の自然分布の北限は南西諸島付近であり、沖縄本島北部では季節風の影響を受ける場所での生育が困難な場合もある。

生育環境としては海岸砂地・石灰岩地をはじめとする沿海の立地を好み、耐塩性・耐潮性・耐風性に優れる。台風時に枝が折れることはあっても、直根性の深い根系により倒木することはほとんどない。琉球列島の海岸植生では、最も海に近い位置にクサトベラ・モンパ・アダンなどの低木層が形成され、その背後にテリハボク・フクギ・アカテツ・ハスノハギリなどの高木層が続くという帯状の植生構造をなしている。

果実は球形の核果であり、外果皮が海水に浸かっても長期間浮力を保つ構造をもつことから、海流による長距離散布(海流散布)が可能とされる。これにより、インド洋から太平洋にかけての広大な島嶼域への自然分布が形成されたと考えられている。成長速度は遅いが、老齢個体は大樹となり、景観的にも重要な存在となる。

生理・化学的特徴

テリハボクの化学的特徴の中核をなすのは、種子から搾取される油脂分「タマヌオイル」に含まれる多様な二次代謝産物群である。タマヌオイルは緑色を帯びた粘性の高い油で、ナッツに似た独特の芳香をもつ。主要成分として、クマリン系化合物(カロフィロライド類・イノフィラムC・イノフィラムB など)、クロマノン酸類(カロフィル酸)、フラボノイド、テルペノイド、脂肪酸(オレイン酸・リノール酸・ステアリン酸・パルミチン酸など)が含まれる。

中でもイノフィラムB(inophyllum B)をはじめとするクマリン系化合物は、HIV逆転写酵素(HIV-RT)の阻害活性を示すことが研究によって報告されており、抗HIV活性成分として世界的な注目を集めた。また、抗菌作用・抗炎症作用・抗酸化作用も報告されており、タマヌオイルはエクストラバージンオリーブオイルと比較して数十倍の抗酸化力を示すとする研究結果もある。紫外線吸収成分を含むことから、天然の日焼け止め効果も指摘されている。

樹皮・葉・根にも有用な化学成分が含まれ、葉の抽出物には抗菌活性およびタンパク質糖化阻害作用、枝および根の抽出物にも抗菌活性が確認されている。また根の抽出物にはメラニン生成抑制作用が認められており、美白化粧品原料としての応用可能性も研究されている。

種子油は食用には適さないが、燃焼特性が優れており、古くは灯火用として利用されてきた歴史がある。近年の研究では、種子油のバイオディーゼル変換適性が評価されており、次世代バイオ燃料の原料として注目が高まっている。宮古島などで宮古島の種子からタマヌオイルを搾取する試みも行われている。

人との関わり

テリハボクは熱帯・亜熱帯のきわめて広い地域で、古来より多方面にわたって人々の生活に深く関わってきた重要な有用植物である。

日本の南西諸島および小笠原諸島においては、台風・塩害・潮風に対して顕著な耐性をもつことから、海岸の防風林・防潮林・屋敷林の構成樹種として古くから活用されてきた。琉球王府時代には「海垣」と呼ばれる防風林が整備され、テリハボクはその主要構成種として重要な役割を担った。宮古島や石垣島の海岸線に広がるテリハボク林は現代においても継続的に維持・補植されており、台風被害の軽減や農業生産の安定化に貢献している。2003年の台風14号来襲後には防風林の有無によって農作物被害の大小が明確に示され、これを契機にボランティアによる植樹活動が活発化した。

材木としての利用も重要であり、木材は硬質で強く、独特の美しい木目をもつことから高く評価される。まっすぐな材が採れにくい樹形的特性があるものの、琉球漆器の素地・高級家具・装飾材・挽物材などに広く利用されてきた。東南アジア・太平洋地域では、材を用いた丸木舟・カヌー(小笠原でのアウトリガーカヌー「カノー」など)の製作も知られている。また材の硬さと粘りはマホガニーの代用材としても評価される。

タマヌオイルの利用はポリネシア・東南アジア・マダガスカルなどの伝統文化に深く根ざしており、切り傷・擦り傷・やけど・日焼け・水虫・虫刺され・湿疹・ニキビ・おむつかぶれ・乾燥肌など多様な皮膚疾患への外用薬として、また神経痛・リウマチ・坐骨神経痛の鎮痛薬として広く用いられてきた。1900年代初頭にタヒチを通じてフランスに伝わり、以後欧米の化粧品市場にも浸透し、現代では国際的な化粧品成分として「テリハボク種子油(Calophyllum Inophyllum Seed Oil)」の名称で日本化粧品工業連合会にも登録されている。さらに民間療法では、樹皮を殺虫・駆虫薬に、根を打撲傷・リウマチ・月経不順・出血の治療に用いる習慣も各地に伝わる。

近年は種子油のバイオディーゼル燃料としての利用可能性が評価されており、沖縄産タマヌオイルの機能性についても県工業技術センターなどによる研究が進められている。街路樹・公園樹・観賞樹としても広く植栽され、南西諸島の都市緑化においても欠かせない樹種となっている。

系統的位置と進化的特徴

被子植物の現代的分類体系(APG体系)において、テリハボクはキントラノオ目(Malpighiales)テリハボク科(Calophyllaceae)テリハボク属(Calophyllum)に位置づけられる。真正双子葉類(Eudicots)の中のバラ類(Rosids)に属し、キントラノオ目は約40科・1万6000種以上を含むバラ類中で最大規模の目のひとつである。スミレ科・トケイソウ科・ヤナギ科・トウダイグサ科など多様な科を包含する、系統的多様性に富む分類群である。

テリハボク科(Calophyllaceae)は13属約460種からなり、世界の熱帯に分布する常緑木本の科である。分子系統学的研究(Ruhfel et al. 2011など)によれば、テリハボク科はカワゴケソウ科(Podostemaceae)とオトギリソウ科(Hypericaceae)を合わせたクレードの姉妹群となる。旧来のクロンキスト体系ではオトギリソウ科(Clusiaceae、ないしGuttiferae)の亜科Clusioideaeに含められるか、独立の亜科Calophylloideaeとして扱われていたが、APG体系では独立の科として確立されている。

テリハボク属(Calophyllum)はリンネ(Linnaeus)によって1735年に設立された古い属であり、約190種が含まれる大型の属である。主に熱帯アジアと太平洋島嶼域に分布し、本種テリハボク(Calophyllum inophyllum)はその代表種である。属内には木材として有名なサンタマリア(Calophyllum brasiliense)など経済的に重要な種も多い。葉緑体ゲノムを用いた系統解析では、C. inophyllumと南米産のC. brasilienseが近縁であることが示されており、テリハボク属の分布進化における太平洋を越えた広域性が分子系統学的にも裏付けられつつある。

テリハボク科を特徴づける進化的形質として、ゴム樹脂を含む乳管・油道の発達が挙げられる。テリハボクの樹皮・種子に含まれる豊富な樹脂・油脂成分はこの形質に起因しており、タマヌオイルに代表される多様な二次代謝産物の蓄積もこの系統的背景をもつ。

また、核果型の大型果実と海流散布への適応は、海流による長距離散布を可能にしたことで、本属がインド洋から太平洋にまたがる広大な島嶼域へ分布を拡大する原動力となった。この形質は、系統の分布域拡大や進化的成功をもたらした進化的鍵革新(evolutionary key innovation)と考えられており、テリハボクの広域な沿岸分布はその代表的な例として位置づけられる。


第1版:2021-07.
第2版:2026-06-26.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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