
クワ(桑)は、クワ科(Moraceae)クワ属(Morus)に分類される落葉高木、またはその総称である。日本国内で単に「クワ」と呼ばれる場合、しばしば日本に自生する野生種であるヤマグワ(山桑)を指すことが多く、その学名はMorus bombycis Koidz.として記載されてきた。なお、この学名は現在では中国大陸から東南アジアにかけて広く分布するMorus australis Poir.の異名(シノニム)として扱われることが多く、両者は同一種として整理される場合がある。
クワは古来、養蚕のための飼料植物として極めて重要な位置を占めてきた植物であり、その葉はカイコ(Bombyx mori)の主要な食草として利用される。属名の由来となった種小名bombycisも、カイコの学名Bombyxに由来するものである。養蚕以外にも、果実(桑の実)は食用や果実酒の原料として、樹皮や根皮は生薬として、材は工芸材として、それぞれ人々の生活と深く結びついてきた植物である。
クワは雌雄異株の落葉高木、あるいは低木状に生育する樹木であり、樹高はおおむね三から十メートルに達する。樹皮は灰褐色から灰色を呈し、若い枝には細かい皮目が見られる。冬芽は互生し、広卵形または円錐形で先端が尖る。
葉は互生し、卵形から広卵形を基本とするが、同一個体内であっても不分裂の単葉から、二から五裂する分裂葉まで著しい変異を示す点が大きな特徴である。葉縁には鋭い鋸歯があり、葉の基部からは三本の太い主脈が放射状に伸びる。葉の質はやや厚く、上面はざらつき、下面には脈上を中心に短毛が見られることが多い。
花期は三月から四月頃であり、葉の展開とほぼ同時期に開花する。雄花序は尾状花序(catkin)として垂れ下がり、多数の小さな雄花からなる。雌花序は球形から短い円筒形を呈し、密に白色の毛を生じる。果実は多数の小さな痩果が集合した集合果であり、成熟すると赤色から暗紫色へと変化し、多汁で甘味を帯びる。この集合果は俗に「桑の実」と呼ばれ、食用に供される。
クワ(ヤマグワ)は、日本、朝鮮半島、中国大陸、南千島、樺太、さらにはベトナムやミャンマー、ヒマラヤ地域にまで及ぶ広い分布域を持つ。日本国内では北海道から九州にかけて、山野に自生する形で広く分布しており、里山や川岸、林縁など、日当たりの良い開けた環境を好んで生育する。
耐寒性、耐乾性ともに比較的高く、土壌適応性も広いため、痩せ地でも生育可能な丈夫な樹木として知られる。落葉性であり、冬季には休眠して低温に耐える一方、春先には比較的早い時期から萌芽・開花する。雌雄異株であるため、結実には雌株と雄株の双方が近接して生育している必要がある。また、鳥類などが果実を採食することで種子が散布され、これによって分布域の拡大に寄与していると考えられている。
養蚕用に長く栽培・選抜が続けられてきたことから、野生系統と栽培系統との間で交雑が生じやすく、地域ごとに多様な品種・系統が分化してきた点も、この植物の生態的特徴の一つとして挙げられる。
クワの葉には、糖の消化吸収に関わる酵素の働きを阻害する成分として知られる1-デオキシノジリマイシンをはじめとする各種のイミノ糖類が含まれており、これが血糖値上昇の抑制作用と関連づけられ、機能性食品の分野で注目されてきた。また葉には各種のフラボノイド類やクロロゲン酸などのポリフェノール成分も含まれる。
樹皮、特に根皮には、クワ特有の成分としてモルシンやクワノンなどのフラボノイド系化合物が知られており、これらが漢方における薬理作用の一端を担うと考えられている。果実には、アントシアニン色素が豊富に含まれており、これが成熟果の赤色から暗紫色を呈する要因となっている。あわせて糖分や有機酸を含み、独特の風味を形成する。
また、クワの乳液(樹液)には各種のタンパク質分解酵素などが含まれることが知られており、これは植食性昆虫に対する防御機構の一部として機能していると考えられている。
クワと人との関わりは極めて古く、その中心にあるのが養蚕である。クワの葉はカイコの主要な食草であり、絹産業の発展を支える基盤植物として、古代より東アジア一帯で栽培・選抜が重ねられてきた。日本においても、地域ごとに多様な栽培品種が育成され、養蚕業の隆盛とともにクワ畑(桑園)が各地に広がった歴史を持つ。
薬用としても古くから利用されており、根皮を乾燥させたものは生薬「桑白皮」として、利尿・鎮咳・消炎などを目的とした漢方処方に配合されてきた。また若葉を乾燥させたものは桑葉として、茶として飲用される例もある。
果実である桑の実は、生食のほか、ジャムやジュース、果実酒などに加工され、近年では前述の機能性成分への関心の高まりとともに、健康食品素材としても利用が広がっている。材はきめが緻密で加工がしやすいことから、家具や工芸品、器具材としても用いられてきた。
クワは、被子植物の中でも真正双子葉類(Eudicots)に属し、その中でもバラ類(Rosids)、さらに細かくはマメ群(Fabids)に含まれる系統に位置づけられる。より詳細には、バラ目(Rosales)クワ科(Moraceae)クワ属(Morus)を構成する一種として扱われる。
クワ科(Moraceae)は、乳液を持つ木本を中心とする科であり、イチジク属(Ficus)やパンノキ属(Artocarpus)などとともに、バラ目の中でも独自の系統群を形成している。クワ属(Morus)は東アジアから北アメリカ、地中海沿岸にまで分布する属であり、分子系統解析からは、各種間で交雑が生じやすい複雑な種分化の過程を経てきたことが示唆されている。
クワ(ヤマグワ)とされるMorus bombycisは、現在では中国大陸を中心に分布するMorus australisと同一種、あるいは極めて近縁な種として扱われることが多く、両者の分類学的な境界は必ずしも明確ではない。これは、クワ属全体に共通する特徴として、種間交雑が生じやすいことに加え、長期にわたる人為的な栽培・選抜の影響によって、野生系統と栽培系統との間で遺伝的な混交が進んできたことが背景にあると考えられている。進化的には、東アジアの温帯から亜熱帯にかけての多様な環境に適応する形で、葉形や耐寒性などの形質に著しい変異を獲得してきた系統であるといえる。
第2版:2026-07-04.
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