ナツメ

概要

ナツメ(棗)は、クロウメモドキ科(Rhamnaceae)ナツメ属(Ziziphus)に分類される落葉小高木、またはその果実を指す名称である。学名はZiziphus jujuba Mill. var. inermis(Bunge)Rehder として表記され、種小名jujubaは英名jujubeの語源ともなっている。基本種であるサネブトナツメ(Ziziphus jujuba var. spinosa)が枝に鋭い刺を持つのに対し、変種名inermisはラテン語で「武装していない、刺のない」を意味し、その名の通り、刺を欠く、あるいは著しく退化した系統を指す。

原産地は中国北部から西アジアにかけての地域とされ、古くから果樹および薬用植物として広く栽培されてきた。日本への渡来も奈良時代以前と考えられており、万葉集にも詠まれるなど、長い栽培の歴史を持つ植物である。

形態的特徴

ナツメは落葉小高木、あるいは高木状に生育する樹木であり、樹高はおおむね十メートル以下にとどまることが多い。樹皮は褐色から灰褐色を呈し、不規則な縦の割れ目が入る。若い枝は紫赤色から灰褐色を帯び、一年枝は緑色を呈して垂れ下がる性質を持つ。基本種であるサネブトナツメでは、葉の基部に托葉が変化した鋭い刺を持つが、変種inermisにおいてはこの托葉状の刺を欠く点が最大の識別形質である。

葉は互生し、葉身は卵形から卵状楕円形で、基部はやや左右非対称の円形、先端は鈍形から円形を呈する。葉縁には不揃いな鈍い鋸歯があり、光沢のある紙質の質感を持ち、基部から三本の脈が目立って伸びる点が特徴的である。

花期は初夏、多くの地域で五月から七月頃にあたり、短枝の葉腋に集散花序を出し、一箇所に一から八個程度の小さな花をつける。花は直径五から六ミリメートル程度と小さく、両性花であり、黄緑色から淡黄色を呈する五数性の花である。萼片は明瞭な竜骨状の隆起を持ち、花弁は萼片の間に位置して小さく、雄しべとほぼ同じ長さとなる。

果実は核果であり、長楕円形から卵形を呈する。未熟なうちは緑色であるが、成熟が進むにつれて橙褐色から赤色、さらには暗赤色へと変化する。果肉は多汁でありながら甘酸っぱい風味を持ち、内部には硬い核があり、その中に一から二個の種子を含む。

分布と生態

ナツメの原産地は南欧州から西南アジア、中国北部にかけての広い地域と考えられており、これらの地域を中心として古くから栽培が行われてきた。中国から日本へと伝来した後は、北海道から本州、四国、九州にかけて広く植栽されるようになり、現在では公園樹、街路樹、庭木としても利用されている。

生態的には、日当たりの良い環境を好み、耐乾性や耐寒性にも比較的優れる、丈夫な樹木として知られる。土壌に対する適応性も高く、やせ地でも生育が可能である。開花期には多数の小花を咲かせ、昆虫による送粉を受けて結実する。基本種のサネブトナツメが刺を持つことで動物による食害を防ぐ形質を発達させてきたのに対し、変種inermisは刺を失った栽培型として、人間による選抜・栽培が進む中で成立してきた系統であると考えられている。

生理・化学的特徴

ナツメの果実には、環状アデノシン一リン酸(サイクリックAMP)をはじめとする生理活性物質が含まれることが知られている。またサポニン類として複数のジジフスサポニンが同定されており、さらにトリテルペン類としてオレアノール酸やベツリン酸などの成分が含まれる。これらの成分は、伝統的な薬効の裏付けとして、現代の薬理学的研究の対象ともなってきた。

果実の成熟に伴い、糖分の蓄積が進むとともに果皮の色調が変化し、緑色から赤色、暗赤色へと移行する。この色調変化には、クロロフィルの分解と、それに伴う他の色素成分の相対的な発現が関与していると考えられている。乾燥させた果実は糖度が高く、保存性に優れることから、乾燥果実(干しナツメ)としての利用に適した性質を持つ。

人との関わり

ナツメは、果樹としても薬用植物としても、極めて古くから人々の生活と結びついてきた植物である。果実は生食されるほか、乾燥させて干しナツメとして、また菓子や薬膳料理の材料として広く利用される。日本薬局方においては、ナツメの成熟果実が生薬「大棗」として収載されており、風邪薬や健胃消化薬をはじめとする多くの漢方処方に配合される。

なお、基本種であるサネブトナツメの種子は生薬「酸棗仁」として、鎮静・催眠を目的とした漢方処方に用いられており、同じナツメ属でありながら、変種inermisの果実(大棗)とは異なる部位・用途で薬用に供される点が興味深い。

また、日本の茶道具の一つである抹茶入れは「棗(なつめ)」と呼ばれるが、これはその形状がナツメの果実に似ていることに由来する名称であり、植物としてのナツメが、実用面のみならず文化的な側面においても人々の生活に深く浸透してきたことを示している。

系統的位置と進化的特徴

ナツメは、被子植物の中でも真正双子葉類(Eudicots)に属し、その中でもバラ類(Rosids)に含まれる系統に位置づけられる。より詳細には、バラ目(Rosales)クロウメモドキ科(Rhamnaceae)ナツメ属(Ziziphus)を構成する一種として扱われる。かつてはクロウメモドキ目(Rhamnales)という独立した目に置かれていたが、現代のAPG体系に基づく分子系統学的な再検討の結果、クロウメモドキ科はバラ目に含まれることが明らかとなっている。

ナツメ属(Ziziphus)は、熱帯から温帯にかけて世界各地に分布する属であり、多くの種が刺を持つ低木または高木として進化してきた系統である。刺は、草食動物による食害への対抗形質として進化したと考えられており、ナツメの基本種であるサネブトナツメにおいても、この刺形質が明瞭に保持されている。

これに対し、変種inermisは、人為的な栽培・選抜の過程において、この刺形質を失った系統として成立してきたと考えられている。これは、収穫や管理のしやすさを重視した人為選抜の結果であると推測されており、野生的な防御形質が、栽培化の過程で失われていく典型的な事例の一つといえる。


第2版:2026-07-04.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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