
Erythrina × bidwillii。
サゴシトウ(ヒシバデイゴ、Erythrina × bidwillii)は、マメ科デイゴ属に属する園芸交雑種であり、北米原産の ヘルバケア(Erythrina herbacea、ハーブデイゴ)と南米原産の アメリカデイゴ(Erythrina crista-galli)を親として成立した人工雑種である。オーストラリアのシドニー植物園で作られた。
鮮紅色の花を長期間にわたり咲かせる観賞価値の高い植物であり、デイゴ類の中では比較的耐寒性に優れる点でも重要である。19世紀の園芸育種の中で成立した古典的ハイブリッドの一つとして知られる。
なお,アメリカデイゴ(Erythrina crista-galli)はアルゼンチン、ウルグアイの国花。
通常1〜3メートル程度に成長する半落葉性低木であり、暖地ではより大型化することもある。枝には短い鉤状の刺を散生し、若枝は緑色を帯びる。
葉は互生し、三出複葉である。小葉は広卵形から菱形に近く、本種の和名「ヒシバデイゴ(菱葉デイゴ)」はこの菱形に近い小葉の形態に由来する。葉質は比較的柔らかく、親種である ヘルバケア(Erythrina herbacea、ハーブデイゴ)よりも大型となる傾向を示す。
花は総状花序に多数つき、鮮紅色から深紅色を呈する。旗弁は細長く湾曲し、翼弁と竜骨弁は著しく短縮される。これは鳥媒花に典型的な形態であり、ハチドリなどが訪花する際に旗弁に止まって花蜜を得る構造に適応している。開花期間は長く、温暖環境では春から秋にかけて断続的に開花する。
果実は細長い豆果であり、内部に硬質の種子を形成する。ただし、雑種であるため結実しないか、結実しても稔性(発芽能力)が低い場合が多い。繁殖は主として挿し木によって行われる。
本種は人工交雑種であるため自然分布域は存在しないが、園芸植物としてヨーロッパ、北米、オーストラリア、日本など広範囲で栽培される。
日当たりと排水性に優れた土壌を好み、高温環境で旺盛に成長する。一方で、親種 ヘルバケア(Erythrina herbacea、ハーブデイゴ)の耐寒性形質を受け継ぐため、熱帯性デイゴ類と比較して低温耐性が高い。軽度の霜に耐える場合もあり、地上部が枯死しても地下部から萌芽再生することがある。日本では関東以西の温暖地であれば屋外越冬が可能な場合もある。
送粉は主として鳥類(原産地ではハチドリ類)を想定した花形態を示すが、日本など鳥媒の送粉者が限られる栽培環境では昆虫による訪花も見られる。
デイゴ属植物として根粒菌(Rhizobium 属など)との共生による窒素固定能力を有する。これにより比較的痩せた土壌でも安定して生育可能である。
デイゴ属にはエリスリナアルカロイド(erythrina alkaloids)が広く含まれることが知られており、本種にも同様の防御化学物質が存在する可能性が高い。エリスリナアルカロイドはテトラサイクリック骨格をもつインドールアルカロイドの一群であり、神経筋接合部においてクラーレ様の筋弛緩作用を示すものが含まれる。そのため人畜に対する毒性に注意が必要である。
鮮紅色の花はアントシアニン系色素によるものであり、鳥類への視覚的誘引に適応した特徴と考えられる。
また、雑種強勢(heterosis)的傾向によって生育勢や開花性が向上している可能性が指摘されるが、雑種であるため種子繁殖が困難であり、栄養繁殖(挿し木)によって個体が維持される。
サゴシトウ(ヒシバデイゴ、Erythrina × bidwillii)は、耐寒性をもつ観賞用デイゴとして高く評価される。特に温帯地域でも栽培可能なデイゴ類として重要であり、庭園植栽や大型鉢植えとして広く利用される。
鮮やかな花色と長い開花期間から、南国的景観演出に適した植物として人気が高く、公園・植物園・個人庭園に広く植栽されている。
種小名 bidwillii は、19世紀オーストラリアで活躍したニュージーランド出身の植物収集家・園芸家であったジョン・カーネ・ビッドウィル(John Carne Bidwill, 1815–1853)に献名されたものである。ビッドウィルはオーストラリア・ニュージーランド・ブラジルで植物採集を行い、本種の育成または導入に関与したとされる。
本種はマメ科(Fabaceae)ネムノキ亜科(Caesalpinioideae、広義にはマメ亜科 Faboideae)デイゴ属(Erythrina)に属する人工雑種であり、母種である北米原産の ヘルバケア(Erythrina herbacea、ハーブデイゴ)と、父種である南米原産の アメリカデイゴ(Erythrina crista-galli)の2種の交配によって成立した。
進化的には自然選択による形成ではなく、人為的交雑と選抜による園芸進化の産物である点が重要である。母種からは耐寒性・草本的再生力を、父種からは大型花・長期開花性・観賞性を受け継ぎ、異なる地理的系統群間の遺伝的組み合わせによって新たな園芸価値が創出された典型例といえる。
また、デイゴ属植物に共通する鳥媒花形質(旗弁伸長・翼弁短縮・多量の花蜜産生)を保持しつつ、温帯栽培適応性を高めた点において、観賞植物育種史上興味深い存在である。
第2版:2026-05-09.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.