
ザクロ(Punica granatum L.)は、ミソハギ科(Lythraceae)ザクロ属(Punica)に属する落葉小高木である。種小名のgranatumは「多数の種子を持つ」という意味に由来する。中央アジアからイラン、北インドにかけての地域を原産地とし、人類が最も古くから栽培してきた果樹のひとつに数えられる。多数の種子を果肉状の仮種皮とともに内包する特異な果実を持ち、食用、薬用、観賞用として世界各地で長い利用の歴史を有する植物である。
ザクロは高さ5から12メートルに達する落葉小高木で、樹木としての寿命は200年前後に及ぶとされる。樹皮は灰褐色から褐色を呈し、生長にともなって黒みを帯び、細かい鱗片状に剥離する。若い枝は断面が4稜形を呈し、短枝の先端は棘状に変化する特徴を持つ。葉は対生し、楕円形から長楕円形で全縁、両面とも無毛で表面には光沢がある。
花は枝先に単生または少数がまとまってつき、萼は肉質で光沢を持ち、先端が5から9個、通常は6個に裂けて三角状に直立する。花弁も萼裂片と同数で、赤橙色から橙黄色の倒卵形を呈し、雄しべは多数を数える。子房は下位で、複数の心皮が上下2段に配置される特異な構造を持つ点が、ザクロ属を近縁属から区別する形態的特徴のひとつである。果実はガクを含む花床組織が発達した特殊な液果(バラウスタ)であり、直径5から12センチメートルの球形で、成熟すると不規則に裂開する。果実内部には多数の種子が房状に配置され、各種子は水分に富む淡紅色の多汁質の種衣(仮種皮)に包まれる。
ザクロの原産地は、イランを中心とする中央アジアから北インド、ヒマラヤ西部にかけての乾燥から半乾燥地帯とされる。この地域では古代より野生集団と栽培集団が長期にわたり接触してきたため、原産地の厳密な特定は難しいとされるが、乾燥・半乾燥気候への高い適応性を示す点は一致している。
耐乾性、耐寒性ともに比較的強く、地中海性気候から温帯にかけての広い範囲で栽培が可能である。現在では中東、地中海沿岸、中央アジア、インド、中国などを中心に世界各地で栽培され、一部地域では野生化した個体群も見られる。生産量ではイランおよびトルコが上位を占める。
ザクロの果実、特に果皮および種衣には、エラグ酸を基本骨格とするエラジタンニン類が豊富に含まれ、代表的な成分としてプニカラギンおよびプニカリンが知られる。これらは強い抗酸化活性を有し、ザクロ果実の機能性成分として近年注目されている。種衣にはさらにデルフィニジン、シアニジン、ペラルゴニジンなどのアントシアニン配糖体が含まれ、果実の赤色を呈する主要色素となっている。
種子油にはプニカ酸と呼ばれる共役リノレン酸の一種が高濃度で含まれることが特徴で、これはザクロ属に比較的特異的な脂肪酸として知られる。一方、樹皮や根皮にはペレチエリンをはじめとするピペリジン系アルカロイド類が含まれ、古くから駆虫作用を持つ成分として利用されてきた。果肉には有機酸としてクエン酸やリンゴ酸が豊富に含まれ、独特の酸味の由来となっている。
ザクロは4000年以上前から中央アジアや中東地域で栽培されてきたとされ、古代ペルシャ、古代ギリシャ、古代エジプトなど多くの文明において豊穣や多産の象徴として神話や宗教的儀礼に登場する。果実は生食のほか、ジュース、シロップ、ペーストなどに加工され、地中海料理や中東料理において広く用いられている。
薬用としては、樹皮や根皮に含まれるアルカロイド成分が古くから駆虫薬として利用され、伝統医学の記録にもその使用が残されている。日本へは平安時代に渡来したとされるが、日本国内では食用としてよりも、庭木や盆栽としての観賞用途が中心であった。現在では果樹としての栽培品種が約800種にのぼるとされ、矮性の観賞用品種であるヒメザクロ(Punica granatum var. nana)をはじめ、花や実の観賞価値を高めた多様な園芸品種が育成されている。
ザクロは被子植物のうち真正双子葉類(Eudicots)のバラ類(Rosids)に属し、フトモモ目(Myrtales)ミソハギ科(Lythraceae)ザクロ属(Punica)に分類される。ザクロ属は、かつて独自の単型科であるザクロ科(Punicaceae)として扱われていたが、分子系統学的解析により、ミソハギ科に含まれる系統であることが明らかとなり、現在ではミソハギ科に統合されている。
ザクロ属には、本種のほかイエメン領ソコトラ島に固有のソコトラザクロ(Punica protopunica)の2種のみが知られる。系統解析によれば、ザクロ属はミソハギ科内のラフォエンシア属(Lafoensia)、ミズガンピ属(Pemphis)、カプロニア属(Capuronia)、ガルピニア属(Galpinia)と近縁であり、これら5属で単系統群を形成する。この系統群はさらに、タバコソウ属(Cuphea)とファイアフレームブッシュ属(Woodfordia)からなる系統と姉妹群の関係にあるとされる。心皮が上下2段に配置される特異な子房構造や、花床組織が発達した果実(バラウスタ)は、ミソハギ科の中でもザクロ属に特徴的な派生形質であり、同科内での独自の進化的分化を示すものと考えられている。
第2版:2026-07-11.
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