タチアオイ

概要

タチアオイ(立葵)は、アオイ科(Malvaceae)タチアオイ属(Alcea)に分類される多年草もしくは越年草である。種小名のroseaは「バラ色の」を意味する。かつてはビロードアオイ属(Althaea)に含められ、学名Althaea rosea(L.)Cav.として広く用いられてきたが、現在ではタチアオイ属Alceaへ移されており、Alcea rosea L.がこの種の正名として扱われる。Althaea roseaはその異名(シノニム)に位置づけられる。梅雨時から夏にかけて2メートル前後の花茎に大輪の五弁花を穂状に咲かせる姿が特徴で、古くから庭園植物として親しまれるほか、生薬としての利用の歴史も持つ植物である。

形態的特徴

タチアオイは草丈1から2メートル、条件により3メートル近くに達する多年草もしくは越年草で、茎は直立し分枝せず、全体に星状毛を密生する。托葉は卵形で長さ約8ミリメートル、先端が3裂する。葉柄は長さ5から15センチメートルで星状毛があり、葉身はほぼ円形で直径6から16センチメートル、5から7裂する掌状の切れ込みを持ち、両面に星状毛を密生する。

花期には長く直立する花茎に多数の花が穂状につく。花の基部を包む小苞(副萼)はカップ状で、通常6から7裂し星状毛を密生する。萼は鐘形で直径2から3センチメートル、裂片は長さ1.2から1.5センチメートルであり、これも星状毛に覆われる。花は直径6から10センチメートルの大輪で、花色は紅、桃、白、黄、紫など多彩であり、花弁が二重や八重になる品種も多い。雄しべは花糸が合着して長さ約2センチメートルの雄しべ筒(単体雄しべ)を形成し、これはアオイ科に特徴的な構造である。花柱は多数に分枝し、有毛である。果実は分離果で、直径約2センチメートルの円盤状を呈し、成熟すると多数のほぼ円形の分果に分かれる。染色体数は2n=42が報告されている。

分布と生態

タチアオイは長らく中国原産とされてきたが、現在ではトルコ原産のアルケア・セトサ(Alcea setosa)と東ヨーロッパ原産のアルケア・パリダ(Alcea pallida)との交雑に由来する栽培由来の系統とする説が有力とされている。すなわち、明確な野生分布域を持つ独立種というよりも、長い栽培化の過程で成立した雑種起源の植物である可能性が高い。

現在では観賞用として世界各地の温帯域で広く栽培されており、日本国内でも古くから庭先や道端に植栽され、一部は逸出した個体が路傍などで見られる。生育には日当たりの良い場所を好み、丈夫で栽培しやすい性質を持つ。花期は本来5月から10月と幅があるが、日本では梅雨の時期に花を咲かせることが多く、この性質から「ツユアオイ(梅雨葵)」の別名でも呼ばれる。

生理・化学的特徴

タチアオイの根には、ペントサンやガラクタンといった多糖類が豊富に含まれ、これらは粘液質としてアオイ科植物に共通する保護作用や緩和作用に関与すると考えられている。花にはフラボノイド類が含まれ、アロマデンドリン、アピゲニン、およびケンフェロール配糖体の一種であるカエンフェロール-3-O-[6″-(E-クマロイル)]-β-D-グルコピラノシドなどが報告されている。

花色の発現には、アオイ科植物に広く見られるアントシアニン色素が関与しており、多彩な花色のバリエーションを生み出す基盤となっている。全草に見られる星状毛や粘液質の分泌組織は、アオイ科に共通する生理的特徴であり、乾燥や食害への抵抗性に関与するものと考えられている。

人との関わり

タチアオイは薬用植物として古くから利用されてきた歴史を持ち、中国名を蜀葵(しょくき)と称する。花は生薬「蜀葵花」として利尿薬に用いられるほか、小児の風疹の治療にも用いられてきた。根は「アルテア根」または「蜀葵根」と呼ばれ、腸炎、尿閉、結石、赤痢、神経痛などに対する伝統的な使用が記録されている。種子は「蜀葵子」として、白斑や虫刺されへの外用に用いられたとされる。

観賞用としての価値も高く、日本には古くから薬用植物として渡来したとされ、花の美しさから庭園や花壇に広く植栽されるようになった。現在では一重咲きから八重咲きまで、花色や草丈の異なる多数の園芸品種が育成され、初夏を彩る代表的な花卉のひとつとして親しまれている。

系統的位置と進化的特徴

タチアオイは、被子植物のうち真正双子葉類(Eudicots)のバラ類(Rosids)に含まれるアオイ類(Malvids)に属し、アオイ目(Malvales)アオイ科(Malvaceae)タチアオイ属(Alcea)に分類される。アオイ科の中では、亜科レベルでアオイ亜科(Malvoideae)に位置づけられる。

タチアオイ属は、単体雄しべ(雄しべの花糸が合着して筒状となる構造)や分離果といった、アオイ科アオイ亜科に共通する派生形質を備えている。分類学的には長らくビロードアオイ属(Althaea)に含められてきたが、形態的および分子系統学的検討の結果、独立したタチアオイ属(Alcea)として区別されるようになった経緯を持つ。本種自体が野生の単一種に由来するのではなく、近縁の複数野生種間の交雑に由来する栽培系統である可能性が高いことは、長期の人為選抜と栽培化の過程で成立した植物という点で、進化史的にも興味深い特徴といえる。

上砂にて.


第2版:2026-07-11.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















植物用語集 セイシボク ザクロ ギョリュウ ムラサキウマゴヤシ ニホンハッカ