チガヤ

概要

チガヤ(学名:Imperata cylindrica P.Beauv.)は、イネ科チガヤ属に属する多年草である。日本では北海道から沖縄まで全国に分布し、日当たりのよい空き地や堤防、河原などに一面の群落をつくる、古くから親しまれてきた野草である。漢字では「茅」「千萱」「白茅」などと表記され、和名の由来は、群がって生える多数の茅(かや)という意味の「千なる茅」にあるとされる。若い花穂は噛むと甘みがあることから、かつては子供のおやつとして親しまれ、根茎は生薬として、また屋根葺きの材料や神事に用いる茅の輪の材料としても利用されてきた、人々の暮らしに深く根づいた植物である。

形態的特徴

地下に長く横走する白色の根茎を持ち、これによって旺盛に栄養繁殖する多年草である。稈は高さ30から80センチメートルほどに直立し、節にしばしば毛が生えるが、まばらであったり無毛であったりすることもある。葉は扁平で、長さ20から50センチメートル、幅約1センチメートルほどの線形をなし、葉縁や葉先が赤みを帯びることが多い。

花期は4月から6月頃で、稈の先端に長さ10から20センチメートルほどの円柱形の円錐花序をつける。小穂は苞穎に包まれた長さ2.5から4ミリメートルほどの披針形で、護穎の基部には長さ8から10ミリメートルに達する白い絹毛状の綿毛が密生する。この綿毛は開花当初はそれほど目立たないが、花が終わる頃には大きく伸長し、花穂全体が銀白色にきらめく穂となって風になびく、本種を特徴づける景観をつくり出す。果実は長さ約1ミリメートルの褐色の穎果である。

分布と生態

チガヤは日本全土に加え、朝鮮半島や中国大陸、さらに広くアジア、アフリカ、南ヨーロッパの熱帯から温帯にかけての地域に分布する。原野や河原、草地、道端、堤防、海浜など、日当たりがよく開けた立地を好み、しばしば密な群落を形成する。地中には鱗片状の葉に覆われた白い地下茎が伸び、これによって冬を越し、春になるとその先端から新しい葉を伸ばして再び緑の原をつくる。

刈り取りなどの攪乱に対する耐性が高く、田の畔などで夏に刈られても秋に再び花穂を出すことがあるように、旺盛な再生力を持つ。地下茎による栄養繁殖力の強さゆえに、農地や造成地などでは駆除が難しい強害雑草として扱われることもあり、原産地以外の地域に持ち込まれた場合には侵略的な雑草として問題となる例も知られている。一方で、年に数回程度の刈り取りを継続することでチガヤが優占する草地を維持すると、他の在来植生との共存が可能になることも報告されており、半自然草地の管理という観点からも注目される植物である。

生理・化学的特徴

チガヤはイネ科植物に広く見られるC4型光合成を行う植物であり、高温や強光、乾燥といった条件下でも高い光合成効率を維持できる生理的特性を持つ。この光合成様式は、日当たりのよい開けた立地に旺盛に生育し、密な群落を形成する本種の生態的な成功を支える基盤となっている。

根茎にはトリテルペン類(シリンドリン、アルンドイン、フェルネノールなど)や多量の糖類(ショ糖など)が含まれることが知られており、これらの成分が生薬としての薬効や、噛んだ際に感じられる甘みのもととなっている。近年の研究では、根茎抽出物に免疫調節作用、抗菌作用、抗腫瘍作用、抗炎症作用、肝保護作用など幅広い薬理活性が報告されており、伝統的な利用の裏付けとなる知見が蓄積されつつある。

人との関わり

チガヤの根茎は生薬名を茅根(ボウコン)といい、日本薬局方にも収載される薬用植物である。中国医学においても古くから、血尿や黄疸、嘔吐、出血、発熱などに対して単独あるいは他の生薬と組み合わせて用いられてきた長い利用の歴史を持つ。若い花穂は茅花(つばな)と呼ばれ、噛むと自然な甘みを感じられることから、かつては子供たちが野遊びの中でおやつ代わりに食べる習慣があった。

また、乾燥させた葉や茎は古くから茅葺き屋根の材料として利用され、日本各地の農村景観を形づくる素材の一つでもあった。神社で行われる夏越の祓の際にくぐる茅の輪も、本種を含むカヤ類の茎を編んで作られる伝統的な神事具である。現代においては、家畜の飼料として利用されるほか、地下茎が土壌をしっかりと縛る性質を活かし、法面の緑化植物としても植栽されることが多くなっている。

系統的位置と進化的特徴

チガヤは、単子葉類のうち、ツユクサ類(Commelinids)と呼ばれる一群に含まれるイネ目に位置づけられる。イネ目はイネ科をはじめとする風媒花を持つ多くの科を含む単系統群である。チガヤはこのイネ目のうち、イネ科(学名:Poaceae)に属し、さらにチガヤ属(学名:Imperata)に分類される。イネ科の中では、キビ亜科(学名:Panicoideae)に含まれ、さらにその下位の連であるモロコシ連(学名:Andropogoneae)に位置づけられる。

モロコシ連には、チガヤのほかサトウキビ属やモロコシ属など、C4型光合成を行う種を多く含むことで知られており、この光合成様式の獲得は、乾燥や高温、強光といった環境ストレスへの適応として進化した重要な派生形質であると考えられている。チガヤに特徴的な、護穎基部に密生する長い綿毛は、風による種子散布を効率化する適応形質であり、地下茎による強い栄養繁殖力とあわせて、攪乱を受けやすい開放的な環境に素早く定着し、群落を形成する本種の生態的戦略を支える進化的基盤となっている。


第2版:2026-07-12.


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