カミツレ

概要

カミツレは、キク科(Asteraceae)シカギク属(Matricaria)に分類される一年草ないし越年草である。学名はMatricaria chamomilla L.であるが、Matricaria recutita L.やChamomilla recutita(L.)Rauschert等の異名(シノニム)も広く用いられており、文献によって表記が異なる点に注意が必要である。原産地はヨーロッパから西アジアにかけての地域とされ、現在では世界各地で薬用・観賞用として栽培されている。

一般には英名に由来する「ジャーマンカモミール」の呼称の方が広く知られているが、和名の「カミツレ」はオランダ語由来の呼び名を経て日本に定着したものである。日本には江戸時代にポルトガルやオランダを通じて伝えられたと考えられている。乾燥させた頭花はハーブティーや芳香浴、化粧品原料など幅広い用途に用いられ、世界的に最も利用頻度の高い薬用植物の一つに数えられる。

形態的特徴

草丈はおよそ15~60センチメートルに達し、茎は直立して基部からよく分枝する。葉は互生し、細かく切れ込んだ二回羽状複葉ないし羽状細裂葉であり、糸状に近い細い裂片を多数持つのが特徴である。

花期は初夏から夏(おおむね5~7月頃)で、茎の頂端に直径約2センチメートルの頭花を単生する。頭花の周辺部には白色の舌状花が並び、中心部には黄色の筒状花(管状花)が密集する。開花が進むにつれて中心の筒状花群が盛り上がるように隆起し、それに伴って周辺の舌状花は下方に反り返る傾向を示す。花床(花托)は円錐状に盛り上がり、内部が中空になる点が、近縁のローマカミツレ(Chamaemelum nobile)との識別点の一つとされる。花には特有のリンゴを思わせる甘い芳香があり、乾燥後もかすかに香りが残る。

分布と生態

原産地はヨーロッパから西アジア、地中海沿岸地域にかけてとされ、現在ではその生育域を超えて北米、アジアなど世界各地に帰化・栽培が拡大している。日当たりのよい草地や畑地、荒れ地、道端などに自生する傾向があり、比較的やせた土壌でも生育可能な適応力の高い植物である。

属するシカギク属(Matricaria)は地中海沿岸からアジアにかけて広く分布し、約50種を含むとされる。近縁のキク属(Chrysanthemum)とは形態的に類似する点が多いが、花床が円錐状に盛り上がる点で区別される。栽培下では一年草として扱われることが多いが、気候条件によっては越年生の性質を示すこともある。

生理・化学的特徴

カミツレの薬理作用は、主として頭花に含まれる精油成分およびフラボノイド類に由来すると考えられている。精油の主要成分としては、青色を呈するアズレン系化合物であるカマズレンや、その前駆体であるマトリシン、テルペンアルコールの一種である(-)-α-ビサボロールなどが知られ、これらの成分が消炎・鎮痙作用に関与するとされる。

また、フラボノイド類としてはアピゲニンやその配糖体(アピゲニン-7-O-グルコシド等)、ルテオリン、クエルセチン、イソラムネチン、ルチンなどが報告されている。これらの成分は抗炎症作用や抗酸化作用を有するとされ、カマズレンやアピゲニンを豊富に含む点は、成分組成の異なるローマカミツレとの薬理学的な相違点としてもしばしば言及される。頭花はこのほか、ファルネセンやスパツレノールといった各種テルペン類も含み、複雑な芳香成分組成を形成している。

人との関わり

カミツレは、西洋において古代バビロニア時代にまで遡るとされるほど、長い薬用利用の歴史を持つ植物である。日本においても、生薬名「カミツレ」として乾燥頭花が用いられ、かつては日本薬局方に収載されていた経緯があり、現在は日本薬局方外生薬規格に位置づけられている。伝統的には発汗、鎮痛、鎮痙、健胃、抗炎症などを目的として、風邪や頭痛、胃部の不調、不眠などに対して用いられてきた。

現代においては、ハーブティーとしての飲用のほか、精油を用いたアロマセラピー、入浴剤としての利用が広く行われている。また、頭花から得られるエキスは収斂作用や保湿作用を持つ成分として化粧品にも配合され、抗炎症・紫外線吸収補助といった目的でも利用される。一方で、キク科植物に対する過感作反応(アレルギー)が知られており、同科のブタクサ属(Ambrosia)やキク属(Chrysanthemum)などとの交差反応性についても注意が促されている。

系統的位置と進化的特徴

カミツレは、被子植物のうち真正双子葉類(Eudicots)に含まれ、さらにキク類(Asterids)の中でキク目(Asterales)、キク科(Asteraceae)へと位置づけられる。キク科は被子植物の中でも最も種数の多い科の一つであり、多数の小花が集合して一つの頭花(頭状花序)を形成するという著しい形態的特徴によって特徴づけられる。

カミツレの頭花にみられる、周辺部の舌状花と中心部の筒状花からなる構造は、キク科に広く共通してみられる派生形質であり、送粉者に対して単一の大きな花であるかのように見せることで訪花効率を高める適応的意義を持つと考えられている。シカギク属(Matricaria)は、花床が中空の円錐状に盛り上がるという固有の形質によって近縁のキク属(Chrysanthemum)やローマカミツレ属(Chamaemelum)などと区別され、これらの属間の形態的差異は、頭花構造の細部における多様化がキク科内で繰り返し生じてきたことを示す一例とみなされている。なお、カミツレを含むこのグループは分類学的な再検討が比較的活発な分類群であり、属の再編に伴って学名が変更された経緯を持つことも、系統関係の理解が進みつつあることの反映であるといえる。


第2版:2026-07-05.

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